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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第24章 カーシーは、城壁で祈りを捧げている最中、一瞬のうちに死にました。 他にも500人が炎の中を消し飛び、シャープはまだそれを知りませんでした。 彼は今死にそうで、窒息しかけて熱にあぶられていました。彼は足を突っ張り、オーブンの中から扉の前に落ちた梁を蹴飛ばしました。 そして何とか這い出すと、テレサを引っ張り出しました。彼女はシャープに何か話しかけましたが、シャープには何も聞こえませんでした。彼は首を振り、もう一つのオーブンを塞いでいる瓦礫をどかし、真っ黒な顔をしたハーパーが這い出してきました。 オーブンが彼らの命を救ったのでした。 小型の要塞のように作られて、壁が3フィート以上もあり、上がカーブした構造のために、瓦礫の中に残ったのでした。 ほかには何も残っていませんでした。 大聖堂は炎を上げる大穴と化し、城砦は消え、家々は燃えていました。 100ヤードほど行ってようやく焼け残った家を発見しましたが、熱気が彼らを押し包み、シャープはテレサの腕を取りました。 道路によろけ出て、助けを求める男がいました。彼は裸で、血を流していましたが、彼らはその男に取り合わず、地下室のドアに駆け寄ると、落ちている石をどかしました。 下から叩く音と叫び声がして、まだめまいのしているハーパーが石を押しやり、扉をひき開けました。 ロッソウとヘルムートがでてきました。 彼らはシャープにしきりに話しかけましたが、シャープには何も聞こえませんでした。 そして彼らは宿営所に走って向かいました。 ポルトガルの守備兵たちが、呆然と地獄の光景を見守っていました。 シャープは台所になだれ込むとジャーマン・ビールのボトルを見つけ、首を折り取り、喉に流し込みました。 冷たいものが胃の辺りに下っていきました。 彼は耳をたたき、頭を振りました。音が聞こえますように。兵士たちは彼を眺めていました。 もう一度頭を振り、そして彼は涙がにじんでくるのを感じて天井を見上げました。 将軍のことを思い出しました。炎を上げていた穴を。彼は自分を呪いました。 「ほかに選択肢がありませんでした」 と、ノウルズが彼に話しかけました。遠くから聞こえるようでしたが、とりあえず音が聞こえてき始めました。 彼は首を振りました。 「いつでも他の方法があるのさ」 「でも戦争ですから。勝たなければならないとおっしゃったじゃないですか」 では、明日祝おう。それか明後日にでも。 と、シャープは思いました。 彼は何もかも剥ぎ取られて、空中を飛んでいった死体のことを考えていました。 「わかっている」 彼は兵士たちに向き直りました。 「何をぼけっと見ているんだ!出発の支度をしろ!」 シャープはウェリントンをも憎みました。 あの将軍がシャープを選んだのは、彼が失敗を自分に許さない、プライドの高い軍人だからです。そしてもしもう一度託されれば、同じことをするであろう自分のことを、彼は知っていました。 非情さは軍人としての資質であり、将軍や隊長には必要でした。それがゆえに兵士たちは賞賛するのですが、非情な人間は痛みを感じるもののことを思いやったりはしないのです。 シャープは立ち上がり、ロッソウを見ました。 「コックスを探しに行こう」 街全体が茫然自失の状態で、炎がはじける音と、嘔吐の声だけが聞こえていました。兵士たちは同僚の無残に飛び散った死体を見つけ出しているのでした。 肉の焼ける臭いが充満し、まるでタラベラの戦闘の後のようでした。 しかしあの時は事故であり、風向きが悪かったせいだった、とシャープは思いました。 今回はシャープが引き起こした出来事でした。 死体は爆風に衣類を剥ぎ取られ、人間に良く似た真っ黒いものに、小さく変じていました。 師団は死に果てた。そうシャープは思いました。黄金のために殺された。 ウェリントンは、自分が火薬にタバコの火を押し付けるとしたら、どんな気がしただろうか。 彼はそんな思いを振り払い、ロッソウと一緒に城壁への坂を登って行きました。そこでコックスは被害状況を確認していました。 全て終わった。誰もがそう思っていました。もはや街の守備は不可能でした。 しかしコックスは、まだ希望を捨てていませんでした。 彼は死者の多さと破壊に、彼の町と希望を吹き飛ばしたものに涙を流していました。 「何があったのだ?」 参謀将校たちからさまざまな回答が寄せられました。 彼らによれば、爆発の直前にフランス軍からの砲撃があり、破片が武器庫に飛び火したというのでした。 「なんということだ」 と、コックスは目を閉じて涙を払おうとしました。 「きちんとした弾薬庫を持つべきだった」 コックスは戦いを続けることを主張したいと思っていましたが、しかし誰もが全てが終わったことを知っていました。 物資もなく、武器もなく、それはフランス軍も理解しているはずでした。 不名誉なこともなく、降伏が文明的な方法で議論されることになるでしょう。 しかしコックスはそれを望まず、煙の中で希望を見つけ出そうとしましたが、やがて同意しました。 「明日だ、諸君。明日にしよう。もう一晩だけ、わが隊の旗を掲げておこう」 彼はスタッフたちをかき分けるようにして、そしてシャープとロッソウを見つけました。 「シャープ!ロッソウ!ありがたい!生きていたんだな。たくさんの者たちが死んでしまった」 「まったくです」 コックスは涙を飲み込みました。 「とてもたくさんの者たちが」 シャープは、トム・ギャラードは生き延びただろうか、と思いました。 コックスはシャープのジャケットの血に気づきました。 「怪我をしたのか?」 「いいえ、大丈夫です。出発の許可をいただけますか」 コックスは反射的にうなずきました。 黄金のことは、敗戦のショックの中で忘れ去られていました。 シャープはロッソウの袖を引っ張りました。 「行こう」 道を下っていくと、セザール・モレーノが当惑した表情で彼らを待っていました。 彼はシャープを片手でさえぎりました。 「テレサは?」 シャープは微笑しました。爆発の後、初めての笑いでした。 「無事です。われわれは出発します」 「ホアキンは?」 「ホアキン?」 一瞬、シャープはテレサの父親が誰のことを言っているのかわかりませんでした。そして、昨夜の屋上での戦いのことを思い出しました。 「死にました」 「それでこれは?」 セザール・モレーノはまだシャープの袖を捕えたまま、辺りの破壊された街並みを見回しました。 「事故です」 モレーノはシャープを見、そして肩をすくめました。 「部下の半数が死んだ」 シャープには何も言うことができませんでした。ロッソウがいきなり割り込みました。 「馬は?」 モレーノは彼を見返し、また肩をすくめました。 「馬は無事だ」 「使えるぞ!」 と、ドイツ人は進み始め、モレーノはシャープをまだ手で押しとどめていました。 「彼女は私と出発すると思うが」 シャープはうなずきました。 「おそらく。彼女は闘い方を知っています」 モレーノは悲しそうな微笑を浮かべました。 「彼女はどちらの側につくかも知っている」 シャープは立ち昇る煙と炎を見ていました。焦げ臭いにおいがしていました。彼は腕を振りほどくと、モレーノに向き直りました。 「俺はいつか必ず彼女の元に戻ります」 「わかっている」 フランス軍は煙の充満した北門から撤収していました。 誰も彼らの出発を妨げるものはいませんでした。 煙の中、黄金を携え、軍司令部を目指して彼らは出発しました。 戦争は、まだ負けたわけではないのでした。
by richard_sharpe
| 2006-11-17 19:58
| Sharpe's Gold
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