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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第22章-2 「あれだけ物音を立てている。われわれには気づかないだろう」 と、エル・カトリコは街路に向かって顎をしゃくりました。 「本当は大尉、きみを殺すために来た」 「どうしてだ?あんたの手に黄金が渡るのは確かじゃないか」 シャープは薄く笑い、エル・カトリコはうなずきました。 「私はきみを信用していないのだよ、シャープ。きみが生きている限り、たとえコックス司令官がきみに難題を吹っかけようとも、たやすく黄金を手に入れられるとは思わんのだ」 シャープはうなずくことでその言葉を認めました。エル・カトリコは目を細めました。 「どうやって問題を解決するつもりだ?」 「明日、俺のやり方をお見せするよ」 シャープはその言葉のとおりならいいのにと、自分でも思いました。 彼はエル・カトリコが体勢をとり、剣で間合いを測るのを見ながら、すぐに始まるであろう絶望的な戦いに、どうやったら勝つことができるかと考えていました。 エル・カトリコは微笑し、細身の剣をシャープに向けました。 「どうかね?もちろんきみは、私が手出しをする前に私を殺すことができるのだ。でもきみはそうしないということを、私は知っている。きみはプライドが高い」 彼は話しながら歩を進め、立ち止まり、剣を構えてくるりと回りました。 「ほらね。きみは誇り高い男だ」 シャープは脇を新たな血が流れていくのを感じていました。彼は剣を敵に向けたまま、相手がマントを下ろして刃を曲げるのを見ていました。 エル・カトリコは剣の先を左手でつまむとゆっくりと、大きく反らせました。 「いい剣だよ、大尉。トレドのものだ。しかし忘れていた。前にお手合わせしたことがあったんだったな」 彼は剣士の姿勢に移りました。右足を前に出して曲げ、左足をその後ろに添えました。 「いくぞ!」 剣の切っ先がシャープに向かってきらめき、しかしシャープは動きませんでした。エル・カトリコは身体を伸ばしました。 「やる気がないのか、大尉?計画よりも楽な死に方をさせてやるのに」 「どんな計画だ」 シャープは梯子のことを考え、夜更けの急襲を予想しました。 エル・カトリコは微笑しました。 「通りで騒ぎを起こし、きみがバルコニーに出たところで一斉射撃だ」 今度はシャープが微笑みました。彼の非現実的なイマジネーションに比べれば、シンプルな方法でした。しかし十分効果的な方法でもありました。 「テレサは?」 「テレサ?きみが死んだら、彼女に何ができるというんだね?彼女は取り戻す」 「そりゃ、楽しみなことだったのにな」 エル・カトリコは肩をすくめました。 「行くぞ、大尉」 シャープには時間がありませんでした。彼はエル・カトリコのエレガントな突きを受けるだけでした。 エル・カトリコは勝利を確信し、ただ非凡な剣士としての腕を見せることにしているようでした。シャープはひたすら、そのごつい刃でエル・カトリコの細身の剣の切っ先をかわしていました。 「大尉!こわいのか?私のほうが上だということに気づいて、怖がっているんだな」 「テレサはそうは言わなかったぜ」 十分な言葉でした。 シャープは、エル・カトリコの表情が変わり、怒りにコントロールを失うのを見て取りました。 彼は剣を突き出し、エル・カトリコもまた切っ先をひらめかせました。シャープは身体を返し、肘を大きく動かしてエル・カトリコのわき腹を狙い、さらに身体を回して柄をエル・カトリコの頭に振り下ろしました。 エル・カトリコはすばやく避け、頭をかすめる風をかわすと、闘牛士のように大きく突きを入れました。 シャープは剣士としての直感で、エル・カトリコが既に体勢を立て直していることに気づきました。そしてまた、彼のペースでの攻撃に移りました。 下の階から扉を打ち叩く音が聞こえました。そして銃声も。 エル・カトリコは微笑しました。 「死ぬ時がきたな、シャープ」 そしてかれはすばやく剣を動かしながらラテン語の祈りを唱え始めました。 剣がわき腹をかすめ、血が流れるのをシャープは感じました。 エル・カトリコの滑らかで深い声が続き、もう一方のわき腹も裂かれました。シャープはなぶられていることを感じていました。おもちゃにされている。祈りが終わるまで、それは続く。 シャープはヘルムートが相手の目だけを狙っていた技を思い出し、試そうとしました。しかしエル・カトリコは一笑に付しました。 「遅いぞ、シャープ!」 ヘルムートは簡単そうにやっていたのに。しかしエル・カトリコは簡単にはずし、そして低く構え、シャープの腿を狙いました。 シャープは、ひとつだけ手があることに気づきました。捨て身の手段でした。 彼は剣をよけず、右の腿を返って大きく前に出しました。そしてエル・カトリコの刃がそれを貫くに任せました。エル・カトリコは、この瞬間剣を失ったのでした。 彼は引き抜こうとし、シャープは傷が貫通するのを感じましたが、既に主導権を取っていました。 シャープは前に踏み出すと剣の鍔でエル・カトリコの顔を大きく殴りつけました。 エル・カトリコはよろめき、シャープの太腿を突き通した剣を握ろうとしましたが逸れ、シャープは刃を振り下ろしまし、エル・カトリコの腕に切りつけました。 思わず叫んだ彼にシャープは後ろ手で刃の平らな部分を振るい、それは頭に命中しました。 エル・カトリコは倒れました。 シャープは動きを止めました。 下から叫び声が聞こえました。 「大尉!」 「上だ!教会の屋根だ!」 足音が聞こえ、街路が騒がしくなりました。彼は、パルティザンたちが逃げにかかっているのかもしれないと思っていました。 シャープはエル・カトリコの剣を握りました。傷はひどく痛みましたが、ありがたいことに、筋の外側を貫いていました。出血と痛みに比べて、実際の損傷は小さいといえました。 彼は歯を食いしばり、力を込めてそれを引き抜きました。 手に持つと、その剣のバランスは比類がなく、実際あのキチガイ沙汰としか言いようのない手段でしか、勝てる方法がなかったことを実感しました。 エル・カトリコは意識がないままうめき声を立てました。 シャープは彼の上にまたがって立ち、敵を見下ろしました。彼は目を閉じ、そのまぶたは小刻みに震えていました。 シャープは自分の剣を取ると、エル・カトリコの喉に押し当てました。 「肉屋の刃物だってなあ、ええ?」 切っ先が屋根に達するまで突き通し、ひねり、蹴るようにして剣を抜きました。 「これはクロード・ハーディのぶんだ」 そして、エル・カトリコの王国の夢は費えたのでした。 扉を叩く音がしました。 「誰だ」 「ハーパー軍曹です!」 「待ってろ!」 シャープは梯子を押しやりました。扉が持ち上がり、ハーパーがたいまつを片手に姿を現しました。 彼はシャープを見、そして視線を死体に向けました。 「ゴッド・セーブ・アイルランド。いったい何をしているんですか?どっちがいっぱい血を流すかのコンテストとか?」 「やつは俺を殺そうとしたんだ」 「本当に?こいつは相当凄腕でしたが、どうやってやったんです?」 シャープは話して聞かせました。 目を狙ったこと、そして自分を貫かせたこと。 ハーパーは首を振りました。 「全く、あなたはバカですよ。脚を見せてください」 テレサがノウルズとロッソウと一緒にやってきて、物語はまた繰り返されました。シャープは興奮が少しずつ鎮まってくるのを感じました。 彼はテレサが死体のそばに膝を突くのを見ていました。 「悪いことをしたかな」 テレサはかぶりを振り、何事かに熱中しているようでした。 彼女は死体の血に濡れた衣服の下から何かを探しているのでした。それは腰に巻かれていました。金貨がいっぱいに詰まったベルトでした。テレサはそれを開きました。 「黄金よ」 「とっておけ」 シャープの腿の傷は痛みましたが、予期したよりも軽い傷であることに彼は感謝していました。彼はハーパーを振り向きました。 「お前の蛆虫を貸してくれ」 ハーパーは笑顔になりました。彼は鉛の容器に白くて太った蛆虫を大事に飼っているのでした。腐肉を食べ、傷をきれいにしてくれるので、包帯の下において傷の治療に使うのです。 ハーパーはシャープの帯をほどき、その傷をきつく縛りました。 「良くなりますよ」 ロッソウは死体を見下ろしていました。 「さて、これからどうする?」 「これから?」 シャープはワインとシチューが欲しいな、と思っていました。 「同じだ。連中は他のリーダーを担ぎ上げる。われわれは黄金を渡さなければならない」 テレサは何かスペイン語でいらだたしげに言葉を吐き捨てました。シャープは笑いました。 「なんです?」 と、ノウルズが屋根の血だまりを避けながら尋ねました。 「彼女は新しいリーダーが気に入らないらしい。エル・カトリコの部下たちは黄金を奪い合って流血沙汰だ。そういうことか?」 テレサはうなずきました。 「じゃあ、誰がリーダーに?」 ノウルズは胸壁に腰掛けました。 「ラ・アグーハだ」 シャープはスペイン語を発音しにくそうに口にしました。 テレサは嬉しそうに笑い、ハーパーは自分の分け前を死体からあさっていましたが、顔を上げました。 「ラ・なんですって?」 「ラ・アグーハ。“針”だ。テレサだよ。俺は約束したんだ」 ノウルズは驚いたようでした。 「テレサ?ミス・モレーノが?」 「いいじゃないか。彼女は誰よりもうまく戦えるぞ」 テレサは嬉しそうでした。 「だがとにかく黄金をスペイン人たちから守り、街を出てからのことだ。仕事を終えなくちゃならん」 ロッソウはため息をつき、使わなかったサーベルを鞘に戻しました。 「そうすると元の問題に戻ることになるな、シャープ。どうやって?」 シャープは実際、この瞬間を恐れていたのでした。結論に緩やかに導かなければならない。そのときが来たのでした。 「誰が俺たちを引き止めている?」 ロッソウが肩をすくめました。 「コックスだ」 シャープはうなずきました。彼はゆっくりと、噛んで含めるように言葉を続けました。 「そしてコックスの権限は、彼が要塞の司令官であることから来ている。もし要塞がなければ、権限はない。権限がなければ、彼は俺たちをとめることはできない」 「だから?」 と、ノウルズは眉をひそめました。 「だから、明日の夜明けに要塞を破壊する」 いっとき、皆が黙り込みました。そしてその沈黙をノウルズが破りました。 「できません!」 テレサは面白がるように笑い出しました。 「できるわ!」 「なんということだ」 ロッソウは恐ろしいものを見たような、怖気づいた表情をしていました。 ハーパーはべつに驚いた様子ではありませんでした。 「どうやるんです?」 そして、シャープは話し始めました。
by richard_sharpe
| 2006-11-13 17:21
| Sharpe's Gold
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