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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第22章-1 ロッソウは首を振りました。 「ここにはいない」 「奴は近くにいる」 「探したよ」 彼らは全ての部屋を、戸棚を、煙突や屋根にまで登り、エル・カトリコの気配がないのを確認していたのでした。しかしシャープは満足できませんでした。ロッソウが通り沿いの家々を確認したことを聞かされはしたのですが。 ロッソウはシャープの腕を取り、食事を勧めました。 黄金はワインの樽と一緒に地下室に納められていました。 シャープはシチューを口に運びながら、黄金とドラゴンの伝説を思い出していました。 埋められた黄金を奪うものは、ドラゴンに襲われる。ドラゴンの復讐を避ける手立てはひとつ、ドラゴンを殺すことだ。 だからこそエル・カトリコの部下たちは、先ほど暗闇の中でシャープたちを襲ったのでした。 「奴は今夜来ると思うのか?」 と、ロッソウは尋ねました。 シャープはうなずきました。 ノウルズは肩をすくめました。 「来ませんよ。黄金は彼の手に渡ったも同然なんでしょう?」 「いや、来る」 シャープはテレサを見つめました。 カーシーがコックスの司令部でシャープを引き止め、テレサを父親の手に返すように促した時、シャープは明日の10時を約束したのでした。シャープはテレサに、彼女がどうしたいのかを尋ねました。 テレサは挑戦的な目つきで彼を見返しました。 「あなたはどうするの?」 シャープの部下たち、そしてジャーマンの兵士たちが好奇心をあらわに彼らを見つめていました。 「あっちの部屋で話そう」 シャープは立ち上がり、小さい部屋へ向かいました。ハーパー、ロッソウ、ノウルズ、そしてテレサが彼らに続きました。 「勝つつもりなんでしょう、リチャード」 「そうだ」 さもなければ彼女も死ぬことになる。エル・カトリコの復讐は、彼女にも向けられるはずでした。 柔らかい椅子に深々と腰掛け、シャープは話し始めました。 「わかっていると思うが、明日黄金を引き渡すように命令が出た。ロッソウ大尉は出発し、われわれは残らねばならない」 「では全て終わりか?」 と尋ねたロッソウ自身、それを信じてはいませんでした。 「まだだ。コックスがなんと言おうと、われわれは出発する」 「黄金は?」 と、テレサは硬い声で言いました。 「持っていく」 安心したような空気が流れましたが、シャープは続けました。 「問題は、どうやって、ということだ」 沈黙。ハーパーは目をとじ、眠っているかのようでしたが、彼が他の誰よりもいちばんよく考えていることは、シャープにはわかっていました。 シャープは答えを期待しているわけではありませんでした。ただ、皆が考え、段階を追ってシャープの結論に同意することを望んでいました。 ロッソウが身を乗り出しました。 「コックスはきみを街から出さないだろう。彼はわれわれが黄金を盗むと思っている」 「だってそうだもの」 と、テレサが肩をすくめました。 「突破しますか?脱走?」 と、ノウルズが尋ね、シャープは厳しい守りのことを考えながら否定しました。 ロッソウがにやりとしました。 「私にはわかったよ。コックス司令官を殺せ」 シャープは笑いませんでした。 「命令が生きているのは彼が司令官である間だけだ」 「なんだと!私は冗談を言っただけだぞ!」 と、ロッソウはシャープを見つめました。シャープは大真面目でした。 シャープは今夜この作戦を果たしさえすれば、英軍は生き延びることがわかっていました。 生き延びれば、ポルトガルは再び戻り、国境を手に入れ、スペインだけでなくヨーロッパ中のフランス軍を打破することができるのでした。 「なぜかはわからないし、どうやるのかも知らないが、とにかく勝利か敗北かはこの黄金にかかっているんだ。持ち出さなければならない。テレサは正しい。俺たちは、黄金を盗もうとしている。ウエリントンの命令の元で。俺にはこれだけしか言えない。黄金は兵士よりも、馬よりも、連隊よりも、大砲よりも重要なんだ。これがなければ戦争に負ける。そうなれば国に帰るか、フランスの捕虜になるかどちらかだ」 「黄金があれば?」 と、テレサは身震いしながら尋ねました。 「英軍はポルトガルにとどまることができる。そして来年にはスペインに戻るだろう。黄金もだ」 ノウルズは肘掛を神経質に叩いていました。 「エル・カトリコを殺せばいい!」 「殺さなけりゃならん。それでもコックスの命令は生きている。スペイン人に渡さなければならない」 ノウルズは何か言いかけましたが肩をすくめ、テレサは立ち上がりました。 「あなたのコートは2階?」 「寒いか?」 テレサは薄手の白いドレスを着たきりでした。 シャープは立ち上がり、同行しようとするロッソウとハーパーを抑え、テレサと一緒に階上に向かいました。 コートはすぐに見つかり、テレサは肩にそれを羽織りました。 「あなたは彼がここにいると思っているのね?」 「俺にはわかる」 歩哨がバルコニーにも屋根にも立っていましたが、シャープの直感はエル・カトリコの復讐が今夜行われることを語っていました。 それは黄金のためではなく、エル・カトリコの男としての誇りを賭けたものでした。 「先に下りていろ。あと2分で行くと伝えてくれ」 シャープはテレサが部屋に入るのを見届けました。 首筋に鳥肌が立つようでした。それは昔から、敵が近くにいることを告げてくれる予兆でした。 彼はベッドに座ってブーツを脱ぎ、静かに動けるようにしました。 エル・カトリコが早く来ればいい。 シャープは早く終わらせたいと思っていました。そうすれば、本来の任務に集中できる。 彼は剣を取り、いつもよりも重たく感じ、エル・カトリコが 肉屋の刃物 と言っていたことを思い出していました。 彼はカーテンを開くとバルコニーに立ちました。隣のバルコニーと屋上に歩哨がいる気配がし、ジャーマンの兵士たちの話し声が聞こえました。 絶対今夜だ!しかしどうやって? 通りに人影はなく、遠くにフランス軍の篝火が見えていました。 向かいの教会の塔が聳え立ち、明かりを鐘がさえぎっていました。 そして、梯子がありませんでした。 シャープは記憶をたどりました。 その朝カーテンを開き、テレサの裸体から目を転じ、鐘に続く梯子を見た。 反芻し、その記憶が確かであることを彼は確認しました。 なぜ梯子がないのか。 彼は左右を見回しました。 もちろん、ノウルズはシャープの部屋のバルコニーにだけは歩哨を置いていないのでした。邪魔をしないように。 そしてエル・カトリコはお見通しで、歩哨のいないバルコニーを襲うはずでした。 教会の屋根から梯子を伝えば、通りを横切って、教会の影に身を潜めながら歩哨の目をかすめてやってくることができる。そして復讐。 馬鹿な妄想だ、とシャープは一瞬思いました。しかしありえないといえるか? 明け方3時か4時ごろが、歩哨の気がゆるむ時間帯でした。そこを狙う。 シャープはバルコニーを乗り越え、通りに飛び降りました。 部下たちは彼が戻らないのを気にしているようでした。 シャープは忍び歩きをしながら教会の影に入りました。そして剣を前に持ち、物音に耳を傾けました。 だんだん興奮が湧き上がってくるのを、彼は感じていました。危険が迫っていました。しかし物音もなく、動くものもなく、彼は教会の軒下に身を潜めていました。 扉は鍵をかけられ、横木が渡されていました。誰もそこにはいないように思われましたが、シャープは自分でそれを確かめるまでは満足できませんでした。 彼は剣を背負うようにしてベルトの後ろに差し、右手を伸ばして石組みをつかみました。 ゆっくりと、静かに、トカゲのように彼は登っていきました。 左肩がひどく痛みましたが、彼は登り続けました。屋根の上を確認しなければならないのでした。 ハーパーはたぶん水臭いと思っているだろう。 しかしこれは、シャープの問題でした。テレサは彼の女でした。そして、彼女を失えば恐ろしく寂しいであろうことを、彼はわかっていました。 ようやく屋根にたどり着きましたが、さらに身体を持ち上げ、軒蛇腹を避けなければ上に登ることはできませんでした。 重心を左に移した途端、肩に痛みが走りました。左腕で体重を支えながら、傷口が開き、血が流れるのを痛みと共に感じました。 歯を食いしばり、彼は右腕を振り上げ、軒蛇腹の上部をつかみました。そしてゆっくりと、体重を移して生きました。 彼は動きを留め、あたりの気配を伺いましたが何も動くものはなく、おそらく屋上は無人と思われました。 右足を持ち上げて少しずつ身体を引き上げ、彼の視界は石壁から夜空に変わりました。 痛みをこらえて左腕で身体を支え、彼は平らな屋上に立ちました。 無人でした。 一つだけ、妙なことがありました。 タバコのにおい。 シャープは剣を背から引き抜き、軒から下を見下ろしました。 ハーパーとロッソウが、彼を探しているはずでした。 屋根の明り取りの扉のそばに、梯子がおいてありました。 シャープは四角く開けた、しかし屋根の陰になっている部分に身を移しました。 ハーパーの声、ロッソウが歩哨を呼ぶ声が聞こえていました。 そして背後で何かがカチリと音を立て、シャープは横に飛びのきました。 扉が開き、タバコの煙が流れてきました。 黒っぽい服装の、口髭を蓄えた男が屋根を横切り、通りを見下ろし、何かスペイン語で呼びかけました。 パルティザンたちが動き出す。シャープはそう思って彼を見守りました。 その男はタバコの吸殻を落とすと背後に戻ろうとしました。誰も登ってきませんでした。 そして扉に近づいた時、彼は何か動くものを見たのでした。 それは人影で、剣を手にしていました。彼は口を開き、叫び声を上げようとしました。 シャープは切っ先で喉笛を狙いました。が、それて肋骨に突き刺さり、男は声を上げました。 剣を引き抜くのももどかしく、シャープは倒れた男の胸を踏みつけ、ようやく刃が動くようになりました。 2番目の男はわずかに扉を開けたところでピストルを構え、シャープは辛くも銃弾を逃れると剣を男の頭に向かって振り下ろしました。 その男が倒れる音を聞くと、シャープは扉をつかみ、閉めようとしました。 「まだだ」 と、その声は下から響いてきました。 教会にいきなり明かりがともりました。 「待て!そこにいるのは誰だ?」 エル・カトリコの、深く滑らかな声でした。 「シャープだ」 「登っていってもいいか?」 「なぜだ?」 「きみはこちらには降りられない。われわれの仲間が多すぎる。だから私が登っていこう。いいかな?」 街路では 「大尉!大尉!」 とシャープを呼ぶ声が聞こえていました。シャープはそれを無視しました。 「あんただけか?」 「私一人だ」 その声は楽しんでいるようでした。 足音が聞こえ、灯りが近づき、そしてエル・カトリコが頭を出しました。片手にランタンを、そしてもう一方の手に細身の剣を持ち、彼は微笑していました。 剣をもてあそびながら、エル・カトリコは屋根の反対側の端に立ちました。 「さて、これできみは私を殺せる。しかし無理だな。きみは名誉を重んじる男だ」 「そうかな」 「カーシーはそう思っていなかったようだが。彼は神に忠誠を誓っているが、きみはそうじゃないからな。さて、行ってもいいか?私は一人だ」 シャープはうなずき、そしてエル・カトリコが扉を閉めるのを見つめていました。 それは重く、厚く、銃弾は貫けないほどのものでした。しかし念のため、シャープは鉄のはしごをその上に載せました。 「用心深いな。それにしても、なぜここに来た?」 「梯子がなかったんでね」 「梯子?ああ、教会の壁を登るのに使ったのだ」 エル・カトリコはマントを広げました。 「銃は持っていない。剣だけだ」 「あんたは何でここに来たんだ」 「きみとともに祈るために」 と、エル・カトリコは笑いました。
by richard_sharpe
| 2006-11-11 13:13
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