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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第21章 「足止めを食らった。そいつが問題だ。足止めだ」 「大尉?」 ハーパーは司令部の外でシャープを待っていました。彼はシャープの傷が悪化して、毒が頭に回ったのではないかと心配しているようでした。 「なんでもない。一人か?」 「ローチとハーグマンが一緒です。それからジャーマンが3人」 小柄でがっしりしたドイツ人軍曹に、ハーパーは親指を立てました。 「あれがヘルメットです」 「ヘルムートのことか?」 「そうです。そう言おうとしたんです。大丈夫ですか?」 「ああ」 シャープは剣の柄に指をかけ、少しだけゆるめました。こういうときに、何かしら事が起こるということを、彼らは感じていました。 「いいですか?」 と、ハーパーが咳払いをしました。 「何?ああ」 しかし彼はまだ動きませんでした。彼は大聖堂を見つめていました。 「戻りますか?」 「いや。あっちだ」 と、シャープは大聖堂を指差しました。 「わかりました」 広場を突っ切り、月明かりに照らされて、シャープは現実に思考を引き戻そうとしていました。 「彼女はどうだ?」 「いいですねえ。一日中闘っていましたよ」 「闘っていた?」 ハーパーは笑みを浮かべました。 「ヘルメットがサーベルの使い方を教えていたんです」 シャープは笑い出しました。テレサらしい。ドイツ人の軍曹はがに股で、奇妙な歩き方をしていました。 ハーパーはシャープの気分が少し上向いたのを見て取ると 「ヘルメットはたいした奴だと思います。どこでも突破していくんです。家も、城壁も、連隊も。まっしぐらですよ。サーベルの使い手ですし」 と言って笑うのでした。 シャープはテレサのことを考えていました。 「今日は何かあったか?」 ハーパーは笑いました。 「たいしたことは。奴らが黄金を取りに来て、こっちはポルトガル語をしゃべれないし、ミスター・ロッソウは連中の英語がわからないし、ヘルメットがちょっと脅して、そうしたらポルトガル人たちは帰っていきましたよ」 「彼女は?」 「台所で、兵隊たちと一緒です。武器の使い方を練習しています。採用したいですねえ」 「ミスター・ノウルズは?」 「楽しそうですよ。周り中に警備を立てて、10分ごとに見回っています。誰も入れません。何が起きるんですか?」 「明日エル・カトリコに黄金を渡すことになった」 「それで?」 「どう思う?」 ハーパーは何も言わずににやりと笑っただけでした。 「よし。行くぞ」 シャープは大聖堂の警備兵の前を通り過ぎ、敬礼をかわし、そしてハーパーだけを連れて中に入りました。 小さいろうそくの明かりだけが黄色い光を天井に投げかけていました。 「これから何をするんですか?」 と、ハーパーがシャープに尋ねました。 「わからん」 シャープは下唇を噛み、光を見つめ、そして階段の下まで進みました。そこからは上履きが必要でした。 だいたい20人の兵士たちが、ここの地下で働いているようだ。 ハーパーはシャープがむき出しに投げ出されているカートリッジを見つめていることに気づきました。 「ドアのところにはもっとありましたよ」 「もっと?」 「山ほど。いくらか持って行きますか?」 シャープは首を振り、ドアの近くのカートリッジの山を見つめました。 そして、さらに地下祭室に向かいました。壁際に武器が積まれ、その奥の祭室は皮のカーテンでさえぎられていました。シャープはカーテンのそばに膝をつきました。 分厚い二重のカーテンは床まで重く垂れ下がり、火薬をもしもの場合から守っているのでした。 シャープは剣を引き抜き、歯を食いしばってカーテンを切り裂き始め、ハーパーはその様子を驚いて見守りました。 「何事ですか?」 「聞くな。歩哨は?」 「上です。なんなんです?」 シャープは手を止めました。 「俺を信じてないのか?」 ハーパーは傷ついたようでした。そしてシャープの頭越しに、カーテンを両手でつかむと、力いっぱい引き裂き始めました。 首筋が盛り上がり、身体中に力を込め、ゆっくりとカーテンを裂いていくのを、シャープが剣で手伝いました。 そしてついに床から2インチの、厚い縁縫いのところまで引き裂き終わると、ハーパーはうなり声を上げて身をそらせました。 「もちろん、信じています。話してください」 彼は本当に怒っているようでした。シャープは首を振りました。 「後でな。行こう」 階上で上履きを脱ぎ、シャープは次にパン屋に向かいました。兵士たちも後に続きました。 パン屋は放棄されていましたが扉は硬く閉ざされていました。 「ヘルメット、ドアだ」 とハーパーがシャープを傍らに避けさせ、ドイツ人はうなずくと、扉を打ち破りました。 「言ったとおりでしょう。憲兵がいたらどうしますか?」 「いたら殺せ」 と、シャープはハーパーに答えました。 「わかりました!聞こえたか、ヘルメット!憲兵を殺せ!」 内部は真っ暗で、店のカウンターの奥に、大きな石造りのオーブンがありました。 それを確認するとシャープは通りに出ました。人影はありませんでした。 狭い坂道を登っていくと、胸壁に歩哨が立っているのが見えました。城壁の外部の斜面は、ポルトガルの歩兵隊が守備をしているはずでした。見えない敵が、闇の向こうのどこかにいて、襲撃をかけようとしている。 シャープからもフランス軍の焚き火が見え隠れしているのがわかりました。 突然の物音に、彼は飛び上げりました。 すぐに気づいたのは、ポルトガル軍がフランス軍の工兵隊への脅しにロケット弾を時折発射しているのだということでした。 フランス軍はまだ十分に近づいてはいませんでした。襲撃はタイムテーブルにのっとって行われており、それは双方承知の上でした。 包囲戦はまだ始まったばかりでした。包囲側の体制はまだ不十分で、要塞は誇り高く聳え立っていました。 シャープは胸壁から北門に進み、ハーパーはシャープの胸のうちを察しました。 「出られませんよ」 「出られないな」 そして再び街路に下り、閉ざされた窓や扉を見ながら靴音を響かせて通りを横切りました。 ハーパーは、何か見たと思いました。確かではありませんでしたが、建物の影に不審なものがいたように思いました。 しかしアルメイダは静かでした。 シャープは剣を引き抜きました。 「大尉、もしかしたら・・・」 ハーパーの心配そうな声で、彼らは屋根の上を忘れていたことに気づきました。ヘルムートが、物音を聞きつけました。そして振り返り、見上げ、何か叫びながら飛び降りてきた男をサーベルで突き刺しました。 シャープは左に、ハーパーは右に走り、いきなり通りは剣を持った影で埋め尽くされました。 ハーグマンは銃剣を手に、壁を背にして迎え撃ち、シャープもまたその壁際で剣の切っ先をわずか数インチのところでかわしました。 シャープは次の敵を剣でかわし、いきなりエル・カトリコがその剣のことを肉屋の刃物だと言っていたことを思い出しました。 怒りがこみ上げ、何かに切りつけ、引き抜き、最初の敵のところに戻ると、ローチが既にライフルの柄で倒した後でした。 シャープは振り返るとつぎの攻撃を予期して剣を閃かせ、横飛びに飛びました。 そして後ろに下がると死体に足を取られ、背中から倒れこみました。 それが幸いしました。 7連発銃が火を噴き、壁に反響した銃声でシャープは頭痛がするほどでした。 乱闘は続いており、英軍兵士とジャーマン・レジオンの3人が、スペイン人たちを挟むようなかたちになっていました。 ドイツ人たちは良く働きました。サーベルの使い手たちでした。 シャープは自分も剣の使い方を学ばなければならない、と思いましたが、今はそれどころではありませんでした。 左肩はずきずき痛みましたが、右手を上下左右に振り回し、ローチとハーグマンが銃剣で闘っているところまでたどり着きました。 パルティザンたちは奇襲が失敗したと見て、逃げ出し始めていました。 ヘルムートはサーベルを短く持ち、最小限の動きで相手の目だけを見ながら闘っていました。敵の顔はどんどん血に染まっていきました。 そして逃げようとした敵をまるで熊のように抱きつき、壁際に力いっぱい押し付けました。敵はずっしりと音をたてて倒れこみました。 「すごいな、ヘルムート」 と、ハーパーが銃剣を拭いながら言いました。 そこへ叫び声がして、6人の男たちがたいまつを掲げてやってきました。 ポルトガル軍の警邏隊でした。 先頭の将校は剣を抜いていました。彼は立ち止まり、表情を変え、大きな笑みを浮かべて両手を広げ、笑い出しました。 「リチャード・シャープ!なんてこった!何をしているんだ?」 シャープも笑い出し、剣の血を拭うと鞘に収めました。そしてハーパーを振り返りました。 「軍曹、トム・ギャラードを紹介しよう。以前は33連隊の軍曹だったんだが、今ではポルトガル軍の中尉殿だ」 彼はギャラードの手を取りました。 「お前か!元気だったか?」 ギャラードはシャープに笑いかけてから、ハーパーに顔を向けました。 「俺たちは一緒の部隊で軍曹だったんだ。まったく、ディック、あれから何年だ?元気そうで良かった。大尉殿ってか!世の中いったいどうなっているんだろうな?」 ギャラードはシャープに敬礼し、そしてまた笑いました。 「ディックなんて呼ばれたのは何年ぶりかな。お前のほうはどうだ?」 「気分よくやってるさ。これ以上はないね。みんないいやつだ。俺たちと同じくらいに良く戦う。いや、まったく。セリングのときの女の子がいたな?ナンシーだっけ?」 シャープの部下たちは好奇心に満ちた目でギャラードを見つめていました。 ポルトガル政府が軍の建て直しのために英軍に協力を要請したのは1年前のことで、ベレスフォード元帥が現在ポルトガル歩兵部隊を指揮しており、経験豊かな英軍の軍曹が現場の将校として引き抜かれたのでした。 ギャラードはハーパーを見ました。 「いいぞ。仕事も楽しい。うちに来たほうがいいぞ、軍曹」 「この方の面倒を見なきゃいけないんで」 と、ハーパーは微笑しました。 「そりゃ残念だ。トラブルか?」 と、ギャラードは今度はシャープに向き直りました。 「終わったところだ」 「何かできることがあるか?」 「門を開けてくれないか。今夜だ」 「何人だ?」 「250だ。騎兵と俺たちだ」 「なんだと。そりゃ無理だ。てっきりおまえたち7人だけだと思っていた。ところでお前が例の黄金を持っているのか?」 「そうだ。何で知っている?」 「いろんなところから命令が来ているぞ!黄金を町から出すなとさ。こんなところに黄金があるなんて知らなかったよ」 ギャラードは首を振りました。 「すまんな、ディック。力になれない」 シャープはにやりと笑いました。 「気にするな。何とかする」 「お前なら何とかするさ。タラベラの事は聞いたよ。すごいな。本当にすごい」 「軍曹も一緒だった」 と、シャープはハーパーを指差しました。 ギャラードはハーパーにうなずきました。 「会えて光栄だ。つぎは俺たちだ。そうだな」 と、ギャラードは部下たちを振り返り、彼らは笑顔を見せました。 「行かなくちゃならん。トム、仕事があるんだ」 ギャラードが死体の片づけをしてくれるという申し出を受け、彼らは別れました。 シャープはハーパーにエル・カトリコの姿を見たかどうか尋ねました。 「いてもよさそうなもんでしたがね。でもいませんでした。たぶん自分の手を汚したくないんじゃありませんか?」 それではどこに? シャープは屋根の上に目を向けました。そしてハーパーを振り返りました。 「屋根に歩哨を置いたか?」 「屋根?ああ、全く!」 「急げ!」 彼らは走り出しました。 二度とあんなことがあってはならない。 シャープはジョセフィーナが血染めのシーツに横たわっていた姿を思い出していました。 神様、どうか、二度と。 彼は剣を握っていました。 「開けろ!」 見張りが彼らに気づき、中庭への扉が開きました。シャープは台所への扉を乱暴に開きました。 そこでは兵士たちが食事をし、火が暖かく燃え、ロウソクがともり、そしてテレサがテーブルの向こうの端にいました。 シャープは大きく息をつき、頭を振りました。ロッソウが部屋を横切ってやってきました。 「おかえり!何事だ?」 シャープは天井を指差しました。 「上の階は!?」 彼は呼吸を整えようとしていました。 「上だ。奴は上で待っている」
by richard_sharpe
| 2006-11-09 16:01
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