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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第18章 犬が街の中で吠えていました。 馬の蹄の音が休みなく聞こえ、ホールでは時計が時を刻んでいました。 その部屋にはろうそくの明かりがともり、書類のこすれる音だけが聞こえていました。 長身で鉤鼻の男は、背を反らせてテーブルを指で小刻みに叩きました。 「攻撃は始まったか?」 「まだです」 将軍は前かがみになると地図の真ん中を指差しました。 「ここか?」 マイケル・ホーガン少佐も身を屈め、セロリコから国境のシウダード・ロドリゴに至る地図を見つめました。 その長い指はアルメイダの北を示していました。 「われわれにできる最善策です」 それはカーシー少佐によって描かれた地図で、下の部分に祈りの言葉か何かがかかれていました。 ホーガンは地図を引き寄せました。 「新しいフランス軍の4師団です。槍騎兵隊が1連隊、そして軽騎兵隊が1連隊」 「食糧を探しているのか?」 「そうです」 「町の周囲に?」 「大きく包囲しています。歩兵2師団と騎兵の偵察隊です」 「連中は遅れている。ホーガン、遅いぞ」 ホーガンは黙っていました。仮にフランス軍の進撃が遅ければそれに越したことはなく、パルティザンや情報将校たちからの報告書はマッセーナが補給に問題を抱えていることなどを伝えていました。また、彼の愛人が足止めの原因になっていることも、噂として伝わってきていました。 「KGL(キングス・ジャーマン・レジオン)からは何も?」 「まだです」 「全く、なんてことだ」 と、将軍はかすかにつぶやきました。 彼はロンドンからの手紙を取り上げました。それには、秋までは金は送れないということがしたためられていました。そして再び、地図に目を落としました。 「彼はどこにいるかな?」 そんなふうに心配するなんて将軍らしくもない、とホーガンは思いました。 「私は彼を知っているつもりですが、彼はおそらくアルメイダを避けるでしょう。こちらに直接向かいます」 「是非避けてほしいものだ」 「たぶんそうするでしょう。しかし確証はありません。それに2日以内には・・・」 ホーガンは肩をすくめました2日以内に、その町は封鎖されてしまうだろうと思われました。 「コックスに警告しておくべきかな?」 その問はホーガンではなく、将軍自身に向けられたものでした。そしてホーガンは、ウェリントンの考えを理解していました。 黄金について知っているものは、なるべく少ないほうがいい。 「もしシャープが生きていれば、ホーガン、きみの言うとおりのことをするだろうと予測できる。アルメイダを避けるだろう。仕事の具合はどうだ?」 「まずまずです。ただ・・・」 「わかっている。金だろう。1週間待てるか?」 「10日は」 ウェリントンは驚いたように眉を上げました。 「それはよかった。それで希望が持てる」 そして将軍は他の仕事に取りかかりました。 「あのロクデナシが生きて帰れたら、一ヶ月の休暇をやろう」 そのロクデナシは、痛む肩とフラストレーションに悩まされながら、アルメイダの錯綜した守備領域を馬で進んでいました。 ロッソウが傍らにいました。 「気の毒だがシャープ、選択の余地はない」 「わかったわかった」 どこからフランス軍が見ているか、わかりませんでした。既に二度追い立てられ、ドイツ騎兵が一人戦死し、ついに彼らは疲れきって、街を目指すことにしたのでした。 城門は藁のたいまつで照らされ、ポルトガル歩兵部隊が門扉を開いており、街に入る兵士たちを眺めていました。 シャープの内股はひどく痛みました。彼は馬に乗るのを嫌がりましたが、ロッソウが許してくれませんでした。 黄金は全て馬の背に移され、ジャーマンによって運ばれていました。シャープは彼らに目をやり、そしてロッソウに視線を戻しました。 「なぜまっすぐ戻らずに、こんなところに寄るんだ?」 ロッソウは笑いました。 「馬に食べさせなくちゃならん!朝には出発だ」 まだ希望はありました。フランス軍はアルメイダの包囲を終えていませんでした。 西の川の向こうに、英軍がいるはずでした。任務完了も遠くはない。 カーシーはやはり借りた馬で、司令部のある宮殿に行列を率いていきました。 シャープはノウルズを探しました。 「中尉、街へ降りて宿舎を探せ。ノックして、空き家かどうか確かめるんだ。後でここで落ち合う」 空き家はたくさんあるはずでした。 「軍曹、彼女には部屋が必要だ。用が済んだら戻ってくる」 ハーパーはにやっと笑いました。 「わかりました」 コックスの司令本部は宮殿の暗い内部に有り、カーシーとシャープ、それにロッソウは足音の響くホールで待っていました。 やがてガウン姿のコックスが姿を現しました。 「少佐!戻ったか!ちょっと待ってくれ。客間で会おう」 シャープは重いベルベットのカーテンを引き、宮殿の向こう側のカテドラルが闇に浮かび上がっているのを見ていました。 ポルトガル人の召使がロウソクとワイン、食事を持って現れました。 彼はカーテンを戻すと、深い椅子にぐったりと座り込みました。 朝になったら、道を下っていく。もう少しだ。もうすぐ終わる。 彼は少しワインをすすり、カーシーのとがめるような目つきを無視してロッソウにも勧めました。 コックスが入ってきて、シャープにうなずきかけました。 「大尉。そしてロッソウ大尉。私にできることは何かな?」 シャープは驚きました。コックスは知っているのか?シャープはロッソウと目を見交わすと、カーシーが何か話してくれるのではないかと目を向けました。しかし少佐は口を引き結んでいました。シャープはワインを置きました。 「黄金のことをご存知ですか?」 「知っている」 「われわれはそれをセロリコに運ばなければなりません。馬にえさをやり、休息を取り、夜明けには出発します。日の出の1時間前に西門を開ける許可を戴きたいのですが」 コックスはうなずき、ワインを飲みました。 「誰の黄金だね?」 シャープは再び気が重くなるのを感じました。 「私はウェリントン伯の命令下にあり、将軍の元に黄金を運ぶようにとのご命令です」 「なるほど!その命令を見せたまえ!」 シャープはカーシーに目をやりました。少佐は赤くなり、咳払いをしました。 「やむをえない事情で、その命令書は紛失しました。シャープ大尉の責任ではありません」 「きみはそれを見たのか?なんと書いてあった?」 「全ての将校はシャープ大尉の介助をするようにと」 「そしてシャープは黄金を将軍の元に運ぶと?」 「命令書にそう銘記はされていませんでした」 シャープはそれをさえぎろうとし、コックスはテーブルを叩きました。 「黄金について、明確に記載されていたのか?」 「いいえ」 シャープはカーシーの真っ正直さを忌々しく思いました。コックスは指でテーブルを叩いていました。 「問題があるのだ」 彼は書類を引き寄せるとロウソクの明かりの下にかざしました。 「スペイン政府からの要請だ。黄金は英軍の手を経るべきではないと。全くおかしなことだ」 「おかしいとは?」 と、ロッソウが咳払いをしました。 「今日、何人かの男たちが到着した。そして黄金について私に話してくれたのだ。初めて聞いた話だ。スペイン軍大佐が、それを運ぶというのだ。ホベリャノスという名だった」 「エル・カトリコだ」 と、カーシーは言い、書類を受け取りました。 「命令書だ。本物だ」 「なんでわかるんです?奴が自分で作ったに決まっている!われわれは将軍からの命令を受けたんです。ウェリントン伯からです。黄金をセロリコに運ぶように!」 「シャープ大尉、怒ることはない。ホベリャノス大佐はここにいる」 「しかし」 と、ロッソウが割って入りました。 「シャープ大尉の話は嘘ではありません。われわれも黄金の重要性について聞かされています。ウェリントン伯の元へ運ぶべきものです」 コックスは大きくため息をつきました。 「今は数日中に必ず始まる籠城戦を控えているのだ。今にも敵の大砲が視野に入ってくるというのに、この騒ぎか?」 「命令を受けたのです」 と、シャープは繰り返しました。 「きみはそういうが、カスティリア軍事政権の承認をホアキン・ホベリャノスは受けているわけだな?そして黄金は彼らのものだ。それに、私は将軍からそのような命令は受けていない!」 シャープはため息をつきました。そして、あることを思いつきました。 「テレグラフは使えますか?」 「使える」 「いつ発信できますか?」 「天候次第だ。通常は日の出の1時間後だ」 シャープは辛抱強くうなずきました。 「それでは将軍の命令次第で、黄金についてご考慮願えますか?」 「もちろんだ。明日の朝一番だな?よろしい。明朝ホベリャノス大佐には私から話そう。もう休みたまえ」 と言ってから、彼はシャープの肩に気づきました。 「負傷しているのか!」 「すぐ良くなります」 と、シャープはワインを飲み干しました。まったく!全く、ウェリントンめ!そして 「ホベリャノス大佐は部下を何人つれていましたか?」 と尋ねました。 「200人だ。私なら夜道で連中に会いたくないね」 俺もだ。と、シャープは思いました。司令官が出て行くのを立ち上がって見送りながら、エル・カトリコが今どこにいるのか、眠っているのか、それとも窓から見張っているのかと考えていました。 「今夜はわれわれが護衛に立つ」 と、ロッソウがうなずきました。 シャープは笑顔で礼を言いました。 「明日は?」 「もし夜明けに出発できないなら、夕暮れになるだろうな」 コックスがいきなりドアを大きく開いて戻ってきました。 「忘れていた!ここで休みたまえ!ベッドを用意させる」 カーシーだけがその申し出を受け、二人の大尉は部下のところに戻ることを述べました。 ノウルズとハーパーは二人のジャーマンと一緒に外で待っていました。 ノウルズが見つけた家は大きく、馬を全部収容することができ、兵士たちも皆休んでいました。 2階の部屋には羽根布団が用意され、新しいシーツまでかけられていました。 彼はドアを締め、テレサを見つめました。 「エル・カトリコが来ている」 彼女はうなずきました。 シャープはベルトをはずし、帯を解き、痛みをこらえながら上着を取りました。 テレサはシーツを押しやりました。 彼女は既に裸になっていました。 彼女はシャープに手を貸しながら、彼と一緒にベッドに横たわりました。 「彼の望みは何かしら」 「あとで」 と、シャープは言いました。 「あとでだ」 右腕で彼女を自分の体の上に載せ、顔の周りに彼女の髪がたれるのを感じました。 彼女は彼の背の傷跡に触れました。そして耳元でささやきました。 「ライフルを持っていてもいい?」 「あんたのものだ。全部」 全部、彼女のものでした。
by richard_sharpe
| 2006-10-19 16:21
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