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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第14章 村にはまだ6頭の馬が残っており、その馬たちは最初の2マイルほどの行程で役に立ってくれました。 しかしその後は険しい登りの道になり、兵士たちが金貨を背負っていくしかありませんでした。 ノウルズたちが馬を乗り捨てに丘陵地に入っていき、シャープはその蹄の跡が追っ手を惑わせてくれないかと期待していました。 強い雨が降り続け、ずぶぬれで疲れきった兵士たちは、それでも進み続けなければなりませんでした。 テレサは全く怖れていない様子でした。彼女はシャープが自分を殺すことはできないと知っているかのようでした。 彼女の首に巻いたロープの端はハーパー軍曹の手首に巻きつけられていました。 「どこに向かうおつもりですか?」 と、ハーパーは雨の中で声を張り上げました。 「サン・アントンの砦だ。前に少佐が話していただろう」 そしてシャープは、カーシーが今どこにいるのかと考えるのでした。 1時間半ほどでノウルズたちが合流し、彼らは何も見つけなかったことを報告しました。 しかし、エル・カトリコとパルティザンたちは、姿を見せることなくどこかから見ているはずだということを、シャープはわきまえていました。 しかし一日の終わりには、シャープもいくらか希望を持ち始めました。 彼は岩場を、兵士たちを追い立てながら進んでいました。 テレサは一部始終を見ながら、常に薄笑いを浮かべていました。 風向きが変わっていないことを、シャープは祈り続けていました。雨の中で目印になるものは何も見えず、雨に向かえば北に向かっている、ということだけが手がかりでした。 ほぼ30分ごとに兵士たちに休息を取らせ、あたりを警戒しながらの行軍でした。 黄金という宝物も、今では兵士たちにとってはただのお荷物でした。シャープが後ろから目を光らせていなければ、彼らは喜んでその荷を捨てていくことだろうと思われました。 どこまで来たか、砦まであとどれくらいか。 シャープにはそれもわかっていませんでした。 前を進んでいた兵士たちがいきなり立ち止まり、シャープは怒鳴りつけました。 「大尉!見てください!」 先頭のノウルズが前方に手を振りました。 雨の中でしたが、それは美しい眺めでした。 台地は急に途切れ、眼下の谷間には川が流れていました。アグエンダ川でした。 ようやくたどり着いたのです。 川向こうに続く道も見えました。サン・アントンに向かうものでした。 やっとここまできたのでした。 「5分間の休憩だ!」 兵士たちは歓声を上げ、腰を下ろしました。 シャープは岩陰から谷間を見下ろしました。人影も、馬の姿もありませんでした。望遠鏡で確認しても同じでした。 「よし!今夜川を渡るぞ!みんな、よくやった!」 まだ雨もひどく、そこからは目のくらむような下り坂でした。 しかし兵士たちにはゴールが見えてきて、プライドも取り戻していました。 明日はアグエンダの向こう岸で目覚め、コア川に向かう。 その辺りは英軍の領域でもありました。フランス軍もほぼ同数駐屯していましたが、アグエンダ川が一応の境界になっているのでした。 「大尉」 と、ハーパーがそっとささやきました。 「大尉、後方です」 騎馬の男たちの姿でした。台地ではなく、直接こちらに向かう道を、パルティザンたちはやってきたのでした。 テレサは勝利の微笑みをシャープに投げかけました。 「何人だ?」 「それほど多くはありません」 20か、30。シャープはそう勘定しました。 「たいしたことはない!銃剣装着!目にもの見せてやれ!」 シャープは兵士たちに向かって叫びました。 騎馬の男たちは隊列を組み、こちらに駆けはじめました。 「よくひきつけろ!待つんだ!」 エル・カトリコが、勝ち誇った笑みを浮かべているのが見えました。テレサが身をよじりましたが、ハーパーがしっかりと抱きとめました。 騎馬隊は回り込み、シャープたちが向かう方角を封鎖しようとしていました。 「行くぞ」 シャープは顔にかかる雨を拭いました。 向かっていくしかない。 結局、エル・カトリコも愚かではなかったということでした。彼はシャープたちが北に向かうことを知り抜いており、彼らが山道をもがいている間に、平坦な道を騎馬で先回りしたのでした。 しかし、そのシャープの行く手に何か違うものが見えました。四角い帽子の騎馬の姿。 「伏せろ!伏せるんだ!」 フランス軍の斥候でした。 エル・カトリコたちは一瞬遅く、ハーパーと娘の傍らに横たわって、シャープはパルティザンたちが谷間を駆けすぎるのを見ていました。 フランス槍騎兵隊が動き出しました。 それは村を襲った隊とは別の部隊で、他の隊と合流しようとしていたところのようでした。1師団全体がそこにいました。そして、ターゲットを見つけたのでした。 エル・カトリコとパルティザンたちは算を乱して逃げ始めました。 テレサが駆け出しました。 「そこにいろ!」 シャープはハーパーに命じると、テレサの後を追いました。 フランス軍に見つかる! シャープはテレサに伏せるように呼びかけましたが、風が声をさらい、彼女は見向きもしませんでした。 シャープは足を速め、彼女に飛び掛り、引き倒しました。流れに半身が浸りました。 テレサはもがき、シャープの目に爪を立て、しかしシャープは彼女に体重をかけ、手首をつかみ、そして彼らは互いににらみ合っていました。 彼女はシャープを蹴り、シャープは両足を彼女の足に絡めました。 彼女を傷つけないように注意しながら、しかし彼は今見つかったら昆虫のようにまとめて串刺しになることも知っていました。 水は彼女の腰まで浸し、そして蹄の音は間近まで迫ってきていました。 見上げると、パルティザンのホセでした。しかしフランス軍が彼を見つけ、殺到しました。槍が彼の背を貫き、そのまま駆け抜けようとする馬を騎兵たちが引き止めるのが見えました。 テレサは身をよじり、叫び声を上げようとしていました。 彼女からはホセの死は見えていませんでしたが、エル・カトリコがどこかにいるのはわかっていました。 シャープは口で彼女の口を塞ぎました。 彼女の歯がシャープの唇を噛み、彼らは目を見開いてにらみ合ったまま、しかし突然彼女はおとなしくなりました。 フランス兵たちが互いに呼び合う声が交わされ、そしてその気配は徐々に遠ざかっていきました。 シャープは血の流れる唇を離し、頭を上げ、ささやきました。 「静かにしていてくれ」 彼女はうなずきました。シャープは手首を緩め、二人はそのまま雨に打たれていました。 蹄の音が近づき、テレサは何か見たようでした。そして何か言おうとしましたが、シャープは首を振り、やがて再び蹄の音が遠ざかって行く間、シャープは彼女にゆっくりと顔を近づけてキスをしました。 テレサは目を見開いていました。 そしてシャープの、血の流れる唇に彼女の舌がふれました。 シャープもまた、彼女を見つめていました。 テレサは目を閉じ、激しいキスをシャープに与えました。 騎兵たちは去ったようでした。シャープは安堵と、少し後悔の混じった吐息を漏らしました。 彼女は動こうとし、シャープはそれを押しとどめました。前方を、兵站の一隊が横切っていくのが見えたのでした。 フランス軍はアルメイダに向かっている。 「おとなしくしていてくれるか?」 テレサはうなずきました。シャープはゆっくりと手を緩め、彼女の傍らに身体を滑らせました。彼女は腹ばいになりました。 その瞬間、どういうわけかシャープの脳裏をテレサの陰影の濃い裸身がよぎりました。 シャープはゆっくりと首の縄目をほどいてやりました。 「すまなかった」 テレサは肩をすくめただけでした。 その首には細い鎖がかけられ、先には銀のロケットが下がっていました。 シャープはそれを開きましたが、予期した肖像画はありませんでした。その代わり、 愛を込めて J. より と刻まれていました。 シャープは最初は Joaquin(ホアキン) のJ かと思ったのですが、英語なのが奇妙でした。 そしてイーグルの指輪を思い出しました。ジョセフィーナがタラベラで買ってくれた銀の指輪。 これはハーディーのものだ。 「彼は死んだんだな?」 一瞬ためらってから、テレサはうなずきました。そして彼女はシャープの指輪に落としていた視線を、その顔にまっすぐに当てました。 「黄金は?」 「なんだ」 「カディスにいくの?」 「いや」 「あなたたちのものに?」 「そうだと思う。しかしフランス軍との戦いのためだ。イギリスに持って帰るわけじゃない。約束する」 テレサはうなずき、そして兵站部隊のほうに眼を戻しました。 フランス軍は北に向かい、アルメイダを攻撃する。 雨が激しくなり、水かさが増してくるようでした。 「ハーディーはどんな風に死んだんだ?」 「エル・カトリコよ」 「なぜ奴は黄金を欲しがっている?」 「力を金で買うのよ」 スペイン軍は霧散し、政府は解体し、それらしいものは遠くカディスにあるだけでした。そしてエル・カトリコは、彼の帝国を建設する機会をつかもうとしているのでした。 無慈悲な男にとって、スペインは今や大きな野望の対象となっているのでした。 シャープはテレサを見つめました。 「で、あんたは?」 「フランス人を殺したいのよ。最後の一人まで」 「我々の力が必要だ」 テレサはしぶしぶながらうなずきました。 「わかっているわ」 シャープは視線をあてたまま顔を傾け、テレサに再びキスをしました。 テレサは目を閉じ、彼の頭に手を当てました。 夢ではない。彼女が欲しい。 彼女は身体を離し、初めて彼に向かって微笑みかけました。 「水かさが増しているわ」 「渡れるか?」 「今夜雨が上がればね。あちら側で夜を明かせるわ」 「あんたはどうする?」 「帰っていいの?」 「ああ」 シャープは自分がバカだと思いました。 「残るわ。あなたの名前は?」 「リチャード」 彼女はうなずき、前方の砦を眺めました。 「あそこなら安全よ。10人いれば入り口を固められる」 「エル・カトリコは?」 テレサは首を振りました。 「あの男はあなたを怖れている。明日、仲間が戻ってくるまで待つでしょう」 雨水は谷間を満たし、岩場も草も水につかりました。 彼らは阪神水につかりながら、兵站部隊が去るのを待っていました。 明日には何が起きるか。 戦争は小休止でした。
by richard_sharpe
| 2006-09-28 17:36
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