カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第12章 それは悪夢のような行軍でした。 闇に慣れた密猟者だったハーグマンの直感だけに頼って、彼らはもと来た道を引き返して行きました。 ノウルズは大丈夫だろうか。もっとたくさんの兵士たちを率い、ハーグマンのような案内者もいない。 それに、シャープと行動しているライフルマンたちは、サウス・エセックスと比べても、いや、軍の中でもっとも優秀なエリートたちなのでした。 世界一だ、とシャープは思っていました。 村の手前で月が出て、彼らのグリーン・ジャケットを照らし出しました。 村は静まり返っていました。 兵士たちは地面に伏せ、シャープは村を見つめました。 彼は立ち上がりました。 「行くぞ!」 大きく迂回して南の谷を回り、月明かりの中で誰にも気づかれないように願いながら、彼らはすばやく進んでいきました。 狼の遠吠えが、一度などはすぐそばから聞こえました。 シャープは東の空が白んでくるのを怖れました。 「伏せろ!」 身を低くして、暗がりの中、フランス騎兵の蹄の跡をたどりながら、彼らは闇の中を村に近づきつつありました。 村の鐘楼が彼らを見下ろしていました。 誰も声を立てず、シャープは薄刃の上を渡るような思いで、兵士たちの先頭にたっていました。 彼は片手を上げ、ハーグマンを振り返りました。 「いいか?」 「完璧です」 ハーグマンは欠けた歯を見せて笑い、シャープはハーパーを見ました。 「行くぞ」 二人は墓地の壁に近づき、そこに来てシャープは気づかれずにそれを乗り越えることがむずかしいことに気づきました。 「鐘楼が見えるか?」 ハーパーはうなずきました。 「誰かが必ずいる。ここは越えられない。見られる」 ハーパーは左側を指差し、シャープもうなずきました。 鐘楼は四方を見渡せるようになっており、村中が見えるはずでした。シャープからはそこに人影は認められませんでしたが、必ずそこに誰か居ることはわかっていました。 彼は、わざわざ罠にかかりに行こうとする小動物のような気分でした。 鐘楼から死角になっている納骨堂の影に回り、彼らは一息つきました。 カーサテハーダは、打ち捨てられたように静かでした。 束の間、シャープは本当にエル・カトリコが部下たちと共に出発したのではないかと思ったほどでした。 しかし彼はラモンのことを思い出しました。 彼はまだ馬に乗れない。テレサがついているはずだ。 誰かがいて、村を監視している。 物音一つしない中、シャープは墓地の鉄柵の扉を通して中を見つめました。月が出ていました。 髪がそよぐ音が聞こえるほど静まり返り、不意に墓地に黄金が隠されているという考えがばかばかしく思われてきました。 シャープはハーパーの肘をつかみ、門の脇の繁みに引っ張りこみました。 「気に入らん」 と、彼はささやきました。何も根拠はありませんでしたが、兵士としての直感が何かを告げていました。 「ここにいろ。俺が行く。誰かが邪魔したら、銃を使え」 パトリック・ハーパーはうなずきました。そして7連発銃を構え、シャープが扉のわきの壁を乗り越えるのを見ていました。 シャープの剣の鞘が石にあたって大きな音をたてるのが聞こえました。 ハーパーは一人で、藪の中に潜み、銃を握りしめていました。 シャープは墓地の内側に這いこみ、自分がたてた音で耳鳴りがするような思いでした。 なんて俺はバカなんだ!剣もライフルも、はずしてくればよかった。 しかし今の彼は夜這いの間男のように大きな音を立て、行く手は石にさえぎられているのでした。 彼は腹ばいのまま、例の新しい墓のほうに進んでいきました。 鐘楼からは丸見えにちがいない。歩哨が眠りこけていますように。 ベルトのバックルやボタンが乾いた土にこすれました。 墓は、やはり疑わしいように思われました。他の墓よりも高く盛り上がっている。 パトリック・ハーパーの直感と、その疑惑だけが根拠ではありました。 シャープはいきなり軍曹のミドルネームがオーガスティンだったことを思い出し、わけもなく可笑しくなりました。 そしてついに墓にたどり着きました。 何も動くものはありませんでした。 彼はただひとりで、誰にも見られなかったような気さえしてきました。 しかし直感はまだそこに危険があるということを告げていました。 彼は素手で掘りはじめ、それが思ったよりも辛い作業であることに、やがて気づきました。 乾いた土を掘り返す音も、大きく響いているように感じられました。 妙な姿勢で屈みこんだまま掘る作業は苦しいものでした。 しかし空が灰色がかってきて時間がないことを知らせ、彼は手を早めました。 墓石の文字までが読めるほどに明るさが増してきました。 まだ土ばかりで何も探り当てられずにいるのに、どこかで声が聞こえました。 それはすぐに途絶え、どうやら誰かが目を覚ましただけのようでした。 しかし既に身を隠すこともできないのは明らかでした。 そのとき、指が何かに触れました。布の袋でした。 彼は袋の中の黄金を思い描きながらさらに掘り続け、表面の土を払いのけ、手を突っ込みました。 金貨ではありませんでした。 指が腐肉に触れ、喉にこみ上げてくるものがありました。 袋をはがしてみると、そこには茶色の服の死体があり、それはハーディー大尉のものではありませんでした。 失敗だ。 手は汚れ、黄金はなかった。 「おはよう」 と、馬鹿にしたような声が聞こえ、シャープが振り返るとエル・カトリコが隠遁所の前に立っていました。 「おはよう、シャープ大尉。腹が減っていたのか?」 シャープは立ち上がり、土の上のライフルに手を伸ばしかけましたが、エル・カトリコの背後からマスケットが彼を狙っていることに気づきました。 足音も立てず、10人あまりのスペイン人たちがそこに現れました。 「よく墓を掘り返すことがあるのかね、シャープ大尉?」 誰も何も言いませんでした。シャープはまっすぐに立ち、手をオーバーオールで拭いました。 ハーパーは何をしているんだ?なぜ現れないんだ?奴らは彼のことも見つけたのか? 何の気配も感じないうちに、エル・カトリコは隠遁所を背に立ち、周囲を固めていたのでした。 「質問に答えたまえ。黄金を探していたのだろう?そうだろう?」 「そうだ」 「しゃべれるじゃないか!」 エル・カトリコは振り返って部下たちに何か言い、そしてシャベルを受け取ると向き直りました。 「掘ればいい。シャープ大尉、掘れ。カルロスをきちんと葬ってやる時間がなかったのだよ。土曜日の夜にあわただしく葬ったのだ。だから代わりにきみがやり直してくれ」 彼はシャベルをシャープにほうり、それは足元に落ちました。 シャープは動かず、ハーパーが何をしているのかとじりじりしていました。 「掘らないのか?」 エル・カトリコの左手が上がり、マスケットの銃口が彼に向けられました。 ハーパーは喉を掻き切られたのだろうか? ハーグマンの助けも望めませんでした。 ノウルズも同じ罠にはめられたかもしれない。 シャープはシャベルを取り、もう望みはなかったものの、死体の下に何かないか掘り返しました。 しかしそこは岩がごつごつとしているだけでした。 エル・カトリコは高笑いをしました。 「黄金は見つかったかね、大尉?」 そして部下たちに通訳し、彼らはこのイギリス人大尉を嘲り笑うのでした。 「ホアキン?」 と、テレサの声が聞こえました。 彼女は白いドレスに身を包み、婚約者の傍らに立つと腕を取りました。 エル・カトリコの説明に彼女が笑うのを、シャープは聞いていました。 「掘れ!大尉、掘るんだ。黄金だぞ!黄金を持って帰らなければならないんだろう」 エル・カトリコは楽しんでいました。 「黄金はない」 「ああ!」 エル・カトリコの通訳でまた皆が笑い、彼は向き直りました。 「部下たちはどこだね?」 「あんたたちを見張っている」 「墓に這って行った時から、きみは丸見えだったのだよ。大尉、きみはずっと一人だった。しかし一人ではないと?」 「ちがう。それから、俺はあんたがここにいるとは思っていなかったんでね」 エル・カトリコはお辞儀をしました。 「それはそれは。テレサの父上が襲撃隊を率いて行ってくれたのだ。私は戻らねばならなかったのだよ」 「黄金を守るために?」 「宝物を守るために」 と、エル・カトリコはテレサの肩に腕を回しました。 「行きたまえ、大尉。部下たちは近くにいるのだろう?そして後ろに気をつけることだな。道のりは長いぞ」 エル・カトリコは笑い、門の方向を示しました。 「行け。フランス軍が黄金を持って行った。私はそういったはずだ。フランス軍だ」 門の鍵は開いていました。 それは簡単に開き、パトリック・ハーパーが元気いっぱいに蹴飛ばしたのでした。 彼は片手で7連発銃を構え、それはエル・カトリコに狙いを定めていました。 「おはようございます!皆さん、今日のご機嫌はいかがですか!」 シャープには見飽きたハーパーのアイルランド人的な皮肉でしたが、それはなかなかのパフォーマンスでした。 シャープには、パトリック・ハーパーがよい知らせを持って沸き立つばかりなのがよくわかっていました。 失敗の惨めさは消え去りました。 ハーパーはニコニコしてスキップしかねない足取りで、ぺらぺらとしゃべっていました。 「いいお天気ですね、閣下」 と、彼はエル・カトリコを見つめました。 「俺はここを動きませんよ、殿様。この銃をぶっ放すまではね。すごい威力ですぜ。頭が完全に吹っ飛ぶんです」 そして彼はシャープに視線を向けました。 「すみません、出てきてしまって!」 シャープは笑みを広げ、そして大笑いしました。すっかり安心したのでした。 ハーパーはひどい臭いがしていました。 「クソの中に落っこちたんですよ」 堆肥にまみれていないのは銃だけでした。 しかし彼はすっかり興奮していて、銃口をエル・カトリコに向けていました。 「連中を呼んでもいいですかね?」 シャープはホイッスルを取り出すと、ライフルマンたちに村に向かうようにとの合図を吹き鳴らしました。 ハーパーはまだエル・カトリコを見つめたままでした。 「ありがとうございます」 これはハーパーの勝利の瞬間であり、それを邪魔するつもりはシャープにはありませんでした。 「殿下、あなたはフランス軍が黄金を持っていったとおっしゃいましたね?」 エル・カトリコは黙ってうなずきました。テレサはハーパーを見つめ、シャープに視線を移しました。 シャープはライフルをパルティザンたちに向けていました。 「フランス軍が黄金を持って行った」 と、テレサの硬い声が二人を軽蔑するような色で響きました。 そしてテレサは自分自身に言い聞かせるように繰り返しました。 「フランス軍が黄金を持って行った」 「けっこうです、お嬢さん。じゃあそうなんでしょう」 ハーパーの声は優しくなりました。 「うちのお袋が言っていたように、知らないものは惜しくないですよね。俺が掘り出したものを見てくださいよ」 ハーパーは皆を笑顔で見渡し、銃を持っていないほうの片手を上げ、底からきらめきながら、たくさんの金貨がこぼれ落ちたのでした。 「ありがたい神様は」 と、パトリック・オーガスティン・ハーパーは言いました。 「今朝は俺にとても親切でね」
by richard_sharpe
| 2006-09-15 18:19
| Sharpe's Gold
|
ファン申請 |
||