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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第9章 すえた甘いような臭いが、村から5マイルの距離にまで漂い、むせ返るようでした。 シャープは、この臭いを熟知していました。軽歩兵隊のほとんどの兵士たちも、この臭いの正体を知っていました。 村には犬さえも生き残っておらず、生き返るのを恐れたかのように、むごたらしくずたずたにされていました。何匹かの猫だけが、時折姿を見せました。 たった一人、生きている人間がいました。 パンと水と一緒に、傷を受けたシャープの部下ジョン・ローデンが残され、息絶えようとしていました。 ラモンはおぼつかない英語と身振りで、村に何が起きたかをシャープに話しました。 50人近い村人たち、ほとんどか老人と子供たちでしたが、皆殺されたというのでした。 フランス軍はゲリラではない村を包囲して逃げる隙を与えなかったのです。 ラモンは引き金を引くしぐさをし、回復したら戦いに戻る意志を見せました。 彼はテレサによく似ていましたが、テレサよりも親しみのある表情を持っていました。 死体は地下室だけでなく、槍騎兵たちのなぶりものにされた挙句に隠遁所に追い詰められて殺されたものも多くいました。 ライフル隊員でナポレオン信奉者のアイザイア・タングは、手にしていた朝食のパンを隠遁所の手前の階段にたたきつけていました。 捕虜にした軍曹をマクガヴァーン軍曹に任せたとき、マクガヴァーンは 「野蛮人ですよ、奴らは」 と、苦しげに言いました。彼の子供と同じくらいの年の子供たちが、隠遁所の中で惨殺されているのでした。 シャープはその手前で足を止めました。 ここに、黄金がある。 シャープは自分の使命に怒りと嫌悪を感じていました。 「外に出してやれ!埋葬するんだ!」 兵士たちは青い顔をし、ハーパーは泣いていました。カーシーは、涙一つ見せないテレサの傍らにたっていました。 「恐ろしいことだ」 「だから彼らは、ああいうことをフランス兵にやるわけですね」 と、シャープは裸にされ、馬に引きずられた捕虜たちのことを思い出していました。 テレサはシャープを見ていました。シャープには、彼女が恐ろしいほどの怒りで、涙を飲み下しているのがわかりました。 シャープはハエを払いのけました。 「黄金は?」 カーシーがシャープに続き、隠遁所の床の意志を指差し、つま先でつつきました。 「この下だ」 「軍曹!ツルハシを探せ!急げ!」 兵士たちは命令を受けて安堵したようでした。 シャープは死体が引きずり出されていく音を聞かないように勤めながら、その敷石をつま先で叩きました。 「貴族ですか?」 「さあ、わからん。昔はそうだったかもしれない」 これはテレサの家族の納骨堂なのでした。 シャープはツルハシを持ってきたハーパーに声を掛けました。 「どこを掘る?」 ハーパーは槍騎兵の死体を蹴り、屈みこんで石の継ぎ目に打ち込むと、顔に血管を浮かび上がらせて力いっぱい持ち上げました。 壊れた石の下には、シャープ一人が十分入れそうなほどの空間がありました。 「みんな、こっちへ来い!」 テレサは向こう側の扉から、まるで無関心な様子で墓地に出て行きました。 ハーパーはもう一箇所、石にツルハシを打ち込み、兵士たちが6人がかりでそれを持ち上げました。 闇の中に、石段が溶け込んでいました。 シャープはそこに一歩足を踏み入れ、叫びました。 「ロウソクだ!誰か!」 ハーグマンが背嚢から取り出して火をつけている間、皆は一瞬静まりました。 シャープは闇の中を見つめていました。 本当にここにウェリントンの希望が埋まっているのか? それは非常に奇妙なことに思われました。 彼はロウソクを受け取ると、埃っぽい朽ちた死臭のする場所へと降りていきました。 棺が並ぶ中、シャープはロウソクを高く掲げ、何か金属が光ったのを目に留めました。 それは黄金ではなく、鋲の破片でした。 シャープはカーシーを振り返りました。 「無いですね」 「無いな」 カーシーは1万6千枚の金貨がその床にあったのを見たことがあるかのように、そこを見回しました。 「持ち去られた」 「どこに仕舞ってあったんですか?」 「きみが立っているところだ」 「どこへ?」 カーシーは鼻で笑い、伸びをしました。 「知るものか。私にわかるのは、ここには何もないということだけだ」 「で、ハーディー大尉はどこです?」 シャープはだんだん腹が立ってきていました。こんなに遠くに来たのに、何もない。 「知らんよ」 シャープは石壁を蹴りつけました。 黄金は持ち去られ、ハーディーは行方不明で、ケリーは死んでローデンは死にかけている。 彼は壁のくぼみにロウソクを置き、屈みこんで床を調べ始めました。 埃に何かを引きずったような跡が残されていました。 黄金は動かされたのだ。 彼は立ち上がりました。 「エル・カトリコが持ち去った可能性は?」 その声は二人の頭上から聞こえました。深く豊かで、若々しい声でした。 「いや、それはない」 とその声が再び言い、グレーの長いブーツと、グレーの長いコート、銀の細身の剣を腰にした姿が現れました。 弱弱しい光の中に、背の高い、浅黒い端正な顔が浮かび上がりました。 「少佐、また会えてよかった」 カーシーは口髭をひねり、 「ホベリャノス大佐、こちらはシャープ大尉です。シャープ、こちらは・・・」 「エル・カトリコ」 シャープは邂逅にふさわしくない、淡々とした声で言葉を継ぎました。 シャープより3歳ほど年上の、背の高いその男は微笑み、優雅な会釈をしました。 「私はホアキン・ホベリャノスだ。スペイン軍では大佐だったが、今ではエル・カトリコとして知られている。フランス軍はこの名をおそれているのだ。しかし私は無害な男だよ」 シャープはこの男の剣さばきの速さを思い出していました。 無害などころか。 彼はシャープに片手を差し出しました。 「私のテレサを救い出してくれたそうだな」 「はい」 もう一方の手がシャープの肩に軽く触れました。 「では、きみに借りができたわけだ」 しかしその言葉は、猜疑に満ちたその目に裏切られていました。 エル・カトリコは一歩下がると優雅な手つきで床を示しました。 「空だ」 「そのようですね。たくさんあったはずなのに」 「きみたちの好意で運んでもらえるはずだった」 といった声は、絹のように滑らかでした。 「カディスへ?」 エル・カトリコは視線をピタリとシャープに据えていました。 「ああ、しかしもう果たせない。なくなってしまった」 「どこにあるか、ご存知なのですか?」 「知っているとも、大尉」 シャープはじらされているのがわかっていました。 「どこへ?」 「興味があるかね?あれは我々のものだ。スペインの黄金なのだよ、大尉」 「好奇心が強い性質でね」 「ああ、なるほど。では好奇心を満たしてあげよう。フランス軍が持って行ったのだ。2日前だ。ハーディー大尉と一緒に。捕虜がそういっていた」 カーシーは会話に割り込む許可を得るように咳払いし、エル・カトリコの言葉を引き取りました。 「そういうことだ、シャープ。終わった。ポルトガルに戻りたまえ」 シャープは彼を無視し、スペイン人をじっと見つめていました。 「確かですか?」 エル・カトリコは笑みを浮かべ、おかしそうに眉を上げ、両手を広げました。 「捕虜が嘘をついていなければね。確かだと思うが」 「あんたはそいつのために祈ったのか?」 「そのとおり。彼は祈りと共に天国へ行った。肋骨を一本ずつ切り取られてね」 エル・カトリコは声を上げて笑いました。 シャープが微笑む番でした。 「こちらにも一人捕虜がいる。あんたの捕虜の話を裏付けられると思うが」 エル・カトリコは指を階上に向けました。 「槍騎兵の軍曹かね?きみらの捕虜というのは?」 シャープはうなずきました。 「そうだ」 「それは気の毒に。ここに着いた時に、私がその男の喉を掻き切ってしまった。一瞬、怒りに我を忘れてね」 口元は笑っていましたが、その目は笑っていませんでした。これが挑戦だ、ということはシャープにはわかっていました。 しかしシャープは肩をすくめただけで、背の高いスペイン人が階段を上がっていく後についていきました。 新たにそこにやってきていた男たちで騒がしくなっていた周囲が、リーダーの登場で静まりました。 シャープはすえた臭いの中で、部下たちをやすやすと動かしている背の高い男を見つめていました。 兵士はその行動だけでなく、どのような敵を打ち破ったかによって判断される。 シャープはそれを知っていました。 そして無意識のうちに、剣の柄に手を掛けていました。 はっきりと口に出されたわけではありませんでしたが、シャープはそこに英軍の敵を見出していたのでした。 そしてそれは、全く個人的な戦いになるはずでした。
by richard_sharpe
| 2006-09-01 17:18
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