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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第7章 ノウルズは実によくやりました。 ホールには敵の姿はなく、レッドコートの兵士たちが装填と銃撃を続けながら2階に進み、ライフルマンたちも回廊に向けて狙いを定め、カーシーはサーベルを手にして窓辺に立ち、 「跳べ!」 と怒鳴っていました。 ハーパーの号令でライフル隊員たちはホールに侵入してくる騎兵を狙い、1階の窓からレッドコートの歩兵たちもなだれ込んできました。 シャープの姿だけがありませんでした。 「大尉は!?」 と、ノウルズはあたりを見回しました。 「いない!外に出ろ!騎兵がいるはずだ!」 カーシーはノウルズの肩をつかみました。 娘はドアを駆け抜け、シャープはそれを追いながら、ふと聖母マリアに捧げられている灯明に気をとられました。 今日、いや、昨日の8月15日は聖母被昇天祭で、カトリックの重要な祝日であることを彼は思い出していました。 そのロウソクを引っつかむと、彼は遠ざかっていく足音を追いました。 あわてて足を滑らせ、彼は階段の下に叩きつけられました。 しまった。と、彼は自分を罵りました。 自分のいるべき場所は部下たちのところで、きれいな娘なんかを追いかけている場合じゃない。 それにしても彼は捕虜を一人解放し、そしてその娘は身柄を確保されていたという意味で、敵にとって重要な人物であるはずでした。 階段は地下に続いていました。シャープはまだクラクラしていましたが、白い腕がいきなり突き出されてろうそくの炎が消え、娘の低い声がしました。 彼らはドアのそばにおり、その隙間から明かりが漏れていましたが、物音はしませんでした。 シャープは彼女が注意を促すのを無視してドアを開けました。 室内にはランタンが吊るされ、その下には恐怖の色を浮かべた槍騎兵が1人、銃剣を装着したマスケットを構えていました。 彼は引き鉄を引くよりも銃剣を使うほうが早いと思ったらしく、シャープに飛び掛ってきましたが、シャープは刃でその口元を払って身をかわし、敵が自らの刃の上に倒れて腹を貫くに任せました。 そして、彼は声を失いました。 部屋はさまざまな恐ろしいやり方で殺された死体に満ちていました。 床はスペイン人の血でどす黒く染まっていました。若いものも年寄りも、男も女も、全て殺されていました。 おそらくその前日、シャープが丘の上から見下ろしていた頃に、フランス人たちが彼らをむごたらしく殺し、村を空にしたらしい、ということがシャープには衝撃でした。 数え切れないほどの死体、数え切れない殺し方。 中には何が起きているかもわからないまま、母親の目の前で殺されたであろう幼い子どももいました。 娘がシャープの傍らを通り過ぎようとしたとき、再び射撃音が聞こえました。 シャープは娘の腕をつかみました。 「行くぞ!」 「だめ!」 彼女は死体を押しのけ、誰かを探していました。 なぜこの死体ばかりのところに護衛がいたのだろう? シャープは彼女を押しやり、ランタンを取って部屋の奥のかすかなうめき声が聞こえた方向を照らしました。 「ラモン!」 ランタンを寄せると、そこには長い血の染みがあり、そして男が石の壁に釘付けにされていました。 彼はまだ生きていました。 「ラモン!」 娘はシャープを押しのけて鈎爪を引っ張り、シャープはランタンを置くとその金具を剣の柄で叩き壊しました。 外からは蹄の音と射撃音が雷のようにとどろいていましたが、ようやく金具が外れ、囚人は自由になりました。 彼は剣を娘に渡してラモンと呼ばれた男を肩に担ぎ上げました。 「行くぞ!」 娘が先に立ち、部屋の反対側の隠し扉を彼女はランタンで指し示しました。 シャープは怪我人を下ろすと手を伸ばし、押し開け、死臭に満ちた室内に流れ込む新鮮な夜気を吸い込みました。そして身体を持ち上げて這い出し、そこが人目につかずに物資を運び入れることのできる扉になっていることに気づきました。 あたりを見回すと、中隊は3列に隊列を組んでいました。 「軍曹!」 ハーパーが振り向き、安堵の表情を浮かべました。 シャープは部屋に戻ると怪我人を押し上げ、娘に手を貸そうとしましたが彼女はそれを無視し、自分で這い上がりました。 兵士たちの間から歓声が湧きました。 ハーパーはしどろもどろになりながらシャープが死んでしまったのではないかと案じていたことを話し、それから怪我人を担ぎ、中隊のほうに向かいました。 闇の中に、騎兵たちの姿がありました。 ハーパーは隊列の真ん中に怪我人を横たえ、ノウルズはシャープに笑いかけ、カーシーは娘のほうに挨拶のようなしぐさを送りました。 「装填できているか?」 シャープはマスケットを構えた兵士たちを指差しながら、家の燃え落ちる音の中でノウルズに向かって叫びました。 「もうすぐです」 「急がせろ!」 ハーパーが7連発銃を手に戻り、シャープは自分たちが門を突破してからどれくらいの時間がたっただろう、と考えていました。 7、8分、そんなものだろう。 兵士たちが7,8百発くらいの弾丸を慌てふためくフランス兵たちに撃ちこみ、カーシーと娘と囚人を救い出すには十分な時間でした。 右側から現れた騎兵隊に向き直り、整然と隊列を組みなおし、兵士たちは身構えましたが、さらに騎兵隊の蹄の音が聞こえてきました。 「退却!」 兵士たちは走り出し、負傷したもののうめき声がその中から聞こえてきていました。 シャープは振り返り、ハーパーに槍が迫っているのを見ました。 軍曹はゲール語で何かわめくと槍をつかみ、騎兵を背後の馬の蹄の下に引きずり落としました。 シャープのすぐ横で引き鉄の音がし、さらにもう一人の騎兵が倒れました。 ハーグマンの声が 「やっつけた」 と、いつものようにつぶやくのが聞こえました。 「後ろ!」 とハーパーの声がして、シャープのほとんど足元に騎兵が踏み込み、彼は広場に逃げました。トランペットの音が聞こえましたが、シャープはとにかく走り、インドで槍に串刺しにされかけたことを思い出していました。 しかしそのとき、ハーパーの勝利の声が聞こえました。 「戻れ!もう十分だ!」 彼は笑っていました。 「やりましたね、大尉!」 シャープは弾んだ呼吸を整えようとしていました。 奇妙に静まり返り、銃声も途絶えていました。 たった50人程度とは、フランス軍は思っていないだろう、と、シャープは思いました。 こちらはどの程度の代償を払ったことだろう。 「無事か?」 と、彼はハーパーに尋ねました。 「はい。大尉は?」 「打ち身くらいだ。あとは?」 「まだ確認していません。ジム・ケリーは重傷です」 ハーパーの声は沈み、シャープは数週間前の結婚式のことを思い出しました。 「クレセイクルはかすり傷だといっています。2,3人はおそらく失ったかと。中庭に行けばわかります」 「誰だ?」 「わかりません」 空が白みかけていました。 兵士たちは眠りをとらなければなりませんでした。 赤い目をして疲れきった何人かを歩哨に置き、シャープはノウルズが負傷者の手当てをしているところにいきました。 例の娘はカーシーの足の傷に包帯を巻いていました。 「どんな具合だ?」 「ケリーはダメです」 伍長の胸のあたりのジャケットはノウルズによって切り取られ、傷口が露出していました。肋骨が見え、血が噴出し、なぜまだ生きていられるのか不思議なほどでした。 クレセイクルは太ももの傷を自分で手当し、シャープになにやら言い訳めいたことを言いました。 ほかに2人、サーベルで切りつけられた重傷者がいましたが、命に別状はありませんでした。 48人。 4人が戻っていない。と、シャープは数えました。そしてケリーが続けば5人。 槍騎兵はその3倍は犠牲を出しているはずでした。 シャープは兵士たちの間を歩いて、起きているものたちをねぎらいました。 「シャープ大尉!」 カーシーはシャープをじっと見つめていました。 「きみは気でも狂ったのか?」 一瞬、シャープには意味がわかりませんでした。 「なんでしょうか」 「いったい何をしでかしたんだ?」 「何をしたか?あなたを救助しに行ったんです」 シャープは感謝を期待していたのでした。 しかしカーシーは戦死者と流血に怒りをあらわにしていました。 「この馬鹿者!どうやって負傷者を送還するつもりだ?」 「我々が運びます」 「運びますだと?20マイル以上も?きみは黄金を守るためだけのためにやってきたはずだ。闘うためではない!」 シャープは深呼吸しました。 「少佐、あなたがいなければ我々はエル・カトリコを説得して黄金を運ばせてくれるようにすることはできません。私はそう判断しました」 カーシーはシャープを見つめ、首を振り、ジム・ケリーを指差しました。 「それだけの価値があることか?」 「将軍は私に黄金が重要なのだとおっしゃいました」 シャープは声を抑えました。 「シャープ、重要だというのは、それはスペインに対してのポーズにすぎない」 「はい」 今は議論している場合ではない、と、シャープは思いました。 「まあ、少なくともきみは彼らを助け出した」 カーシーは2人のスペイン人の方に手を振りました。 「彼らは?」 「モレーノ家の子供たちだ。テレサとラモンだ。フランス人たちは、モレーノかエル・カトリコが彼らを救出しにくるだろうと思って人質にしていたのだ。少なくとも我々は彼らの感謝を受けることができるだろう。黄金よりももっと大切なものを取り戻したのかもしれないからな。ともあれ、黄金があそこにあるのかどうかわからんぞ」 「なんですって?」 「何を期待しとるのだ?フランス軍がただあそこにいたわけはなかろう。どうだ?」 シャープはカーシーに自分の考えを述べる気分ではありませんでした。 フランス軍が黄金を手にしていたとしたら、一気にシウダード・ロドリゴに引き上げていくだろうと思われました。 「彼らは何かそういうことを言っていましたか?」 「いや。何も」 「では希望はあるわけです」 少佐は苦い顔つきで、ケリーを指差しました。 「彼にそう言ってやれ」 そして、ため息をつきました。 「すまん、シャープ。言い過ぎた。連中は今日中にまた戻ってくるかな?」 「フランス軍ですか?」 「そうだ。きみは休んだほうがいい。数時間後には、ここを守備しなければならないことになる」 「わかりました」 シャープはカーシーから離れ、テレサの視線に気づきました。 彼女は何の興味も示さずに彼を眺めていました。 エル・カトリコはラッキーな男だな。 とシャープは思い、眠りに落ちていきました。
by richard_sharpe
| 2006-08-26 19:22
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