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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第6章 シャープは自分自身をごまかそうとしていました。 とてもシンプルだ。フランスでも随一といわれる2連隊に夜襲をかけ、少佐を解放する。 まともなヤツなら、引き返すべきだ。フランス軍は既に黄金を奪取しており、戦争は終わりだ。気の利いた兵士なら、ライフルを引っ担いで生きて帰ることを考えるだろう。 そのかわりに捨て鉢になったギャンブラーのように、16倍の敵に向かって行こうとしている。 シャープは夕日が稜線に消えていく中、フランス軍の野営地を眺めていました。 彼らは強い。が、防御に回った時には弱点を露呈する。 シャープは身体の中に興奮が湧き上がってくるのを感じ、成功を確信し始めていました。 フランス軍はゲリラの攻撃は予期し、少数のグループに対しての準備はしているが、英軍歩兵部隊の登場は考えてもいないだろう。 それがシャープの希望でもありました。 カーシーがモレーノの邸のバルコニーに座っているのがシャープには見えていました。 闇の中の進軍は永遠に続くようでしたが、シャープは決して兵士たちをせきたてませんでした。 フランス軍の焚いている明かりは、彼らにはまるで烽火のようにはっきりとした目印になっていました。 「やつらにはこっちが見えませんよ」 と、ハーパーがシャープの傍らでささやきました。 兵士たちは銃を装填し、白いベルトをコートで隠していましたが、彼らの吐く息さえもが闇の中では大きすぎるほどでした。 村に近づくにつれ、彼らは丸裸のような心細さを感じました。自分の足音にさえ怯え、しかしそれは敵の歩哨にとっても同じことだと、シャープにはわかっていました。 その晩で、今がいちばん辛い時間でした。 壁の内側には騎兵たちがいて、丘からは狼の遠吠えが聞こえ、兵士たちは生きて帰れるかどうかという恐怖に襲われているのでした。 光が閃きました。 「伏せろ!」 シャープは押し殺した声で命じ、自分の心臓の音がうるさいほどに聞こえるのを感じていました。 どうやらフランス兵がもう一つ明かりをつけただけのことのようでした。 この静かな、打ち捨てられた村。しかし本当に村人たちに捨てられたのだろうか。 「軍曹」 「はい」 「俺たち二人で行く。中尉、ここで待て」 シャープとハーパーの濃い色のユニフォームが闇に溶け、しかしシャープはジャケットの布のこすれる音、ベルトの鳴る音が大きすぎるように感じていました。 影の中に、どんな危険が潜んでいるか。 やがてシャープは手探りで乾いた石壁にたどり着き、ハーパーを傍らに、無人の村の中を闇をたどりながら進んでいきました。 本当に無人のようでした。 ハーパーは低く口笛を3回吹き、中隊の影が動き始めました。 「こちら側で待機だ。ライフル隊がまず動く。合図を待て」 シャープの言葉にノウルズがうなずき、白い歯を見せました。中隊の全員が、興奮しているのがわかりました。彼らは16倍の敵に向かっていくのを楽しんでいるのでしたが、それがシャープがいるからだということに、彼自身は気づいていませんでした。 ハーパーもノウルズも、この長身のライフル隊長が、何も言わなくても不可能を可能にし、彼の行くところには確実に勝利があると兵士たちが信じていることを知っていました。 ライフル隊員たちが壁に沿って移動し、中隊が続きました。 フクロウが飛び立ち、ハーパー以外の全員をぎょっとさせました。 細い道は兵士たちでいっぱいでした。モレーノ邸の壁は高く、8フィート余りありましたが、家畜移動用の門は大きく開いており、焚き火のそばの兵士の顔が白く浮かび上がっているのが見えました。パルチザン警戒のために、彼らはわざと大きく門を開いているのでした。 しかし、まさか歩兵部隊が正面攻撃を掛けるとは思ってもいないだろう。 シャープは薄笑いを浮かべました。 「準備できました」 と、ノウルズが言いました。シャープはライフルマンたちに向き直りました。 「将校を狙え。いいな」 まずライフル隊が侵入して発砲、敵を混乱に陥れ、ノウルズ以下の中隊が騎兵に襲撃をかけるという計画でした。 シャープは待っていました。 兵士たちが銃剣を装着すると、彼の命令と共に全員が叫び、わめきたてながら門から侵入し、守備側はライフルマンたちが射程距離に入る前から銃撃を開始しました。 ハーパーが走りこみ、火のついた薪をつかんで騎兵たちに投げつけるのが見えました。 馬たちは棒立ちになり、シャープは剣をふるって敵兵の喉に突き立てました。 「行くぞ!」 ライフルマンたちは門に走りこむと膝を突き、灯りに照らされたあたりを狙いました。 防御側は統制がお粗末でした。 ノウルズに率いられたレッドコートの兵士たちも焚き火の周りに走りこみ、隊列を整え、マスケットを構えました。 ハーパーの声と銃声が聞こえ、シャープは槍騎兵がこちらに向かってくるのを見ました。 頭を振りたてた馬の瞳に焚き火が反射し、騎手は刃をシャープに向かって繰り出しました。 シャープは身を翻し、門にぶつかりました。 銃声が聞こえ、馬がいななき、騎兵は落馬し、シャープはまっすぐに中庭に駆け込みました。 何もかもがゆっくりと過ぎていくようでした。 シャープはサーベルを振りかざした騎兵の胸に剣を突っ込み、その傍らをライフル隊員たちが喚きながら駆け抜けていきました。 剣を引き抜きながら振り返ると、ハーパーが銃剣で将校を一人倒したところでした。 「ライフル隊!」 シャープは叫び、ホイッスルを吹き鳴らしました。 放れ馬たちが走り回る中、兵士たちは門内を満たし、ロバート・ノウルズ中尉はフランス兵なら誰もが知っている、英軍歩兵部隊の号令を発し始めました。 「構え!前列!撃て!」 闇にまぎれたナイフの襲撃の代わりに、最も予想外の攻撃が始まったのでした。 マスケットの銃撃は規則的に続き、兵士たちは手順どおりに発砲していきました。 ノウルズ中尉の声はあくまで冷静で彼は常に先頭に立ち、虐殺の指揮を取っていました。 兵士たちの頬は火薬で汚れ、銃撃の反動で肩が痛み、しかし中庭は敵の死体で埋め尽くされ、煙の中で篝火に照らされていました。 ハーグマンのグループが門を閉めるまで、襲撃の開始から1分たったかどうか、というところでした。 「中に入るぞ!」 シャープがドアを蹴り、ハーパーが殴りつけ、開いた扉から建物の中に兵士たちは殺到しました。 ノウルズ中尉は中庭で、ハーグマンが相棒に装填してもらいながら射撃を続け、バルコニーに姿を現す将校を残らず仕留めているのを見ていました。 この中尉にとってはまだ3回目の実戦で、パニックになりそうな気持ちを抑えながらの戦いでした。 焚き火の向こうからフランス将校が躍り出て彼の喉首をつかみあげ、ノウルズは息が詰まるのを感じながら、突然父親が買ってくれたサーベルを自分が握っていることを思い出しました。彼は目を閉じ、相手の喉に突き刺しました。 このとき命令は中断していましたが、兵士たちはそれに気づかず、間断ない射撃を続けていました。 目を開くと、初めて自分の手で殺した敵の傍らに、ハーパー軍曹がいました。 「こっちです、中尉!」 突入から1分半。シャープは銃声の数からそう判断していました。 モレーノ邸の階段の上に将校たちはバリケードを築いていました。 「お前の銃を貸せ!」 シャープはハーパーに叫びましたが軍曹はにやりと笑うと首を振り、7連発銃の引き金を引きました。 ハーパーは後ろに吹っ飛び、シャープは驚いて駆け寄りました。 「すごい反動ですね」 剣を突き出しながら階段を駆け上がると、吹き飛んだバリケードの後ろで将校が1人、ピストルを構えていました。 引き金を引くのをシャープはなすすべもなく見ていました。 不発でした。将校はあわてたあまりに装填をしていなかったのでした。生死の分かれ目となりました。シャープの剣が彼の頭蓋骨を打ち砕きました。 ライフルマンたちも殺到し、ハーパーは銃剣を振りかざしてシャープの傍らに立ちました。 「カーシー!」 シャープは階級も敬称も忘れて怒鳴りました。 「シャープ?」 「出てきてください!」 「逃亡しないという宣誓をしたのでな」 「助けに来たんです!」 宣誓がどうした! 廊下の突き当りのドアが開き、銃声がし、またドアが閉まりました。 カーシーはいきなり目が覚めたような顔つきをしていました。 「こっちだ。飛び降りなけりゃならん」 シャープはうなずきました。 階下は大混乱でした。 シャープは階段の上から怒鳴りました。 「中尉!上がって来い!」 カーシーがブーツを引っ張り上げながら片足跳びでシャープのそばにやってきました。 「ライフル隊員が援護します。少佐、続いてください!」 カーシーはシャープの命令に素直に従い、彼に続いてドアを通り抜けました。そしてつぎのドアを肩で打ち破り、いきなりシャープは立ち止まりました。 ベッドの上に、手と足を縛り付けられ、黒髪で白いドレスを着た娘が横たわっていました。 その髪の色はジョセフィーナを思わせましたが、猿轡をはめられた彼女の目は、ぎらぎらとシャープをにらみつけていました。 彼女は逃げようともがき、その鋭い顔つきの美しさにシャープは打たれました。 彼はロープを切ろうと駆け寄りましたが、彼女は首を振りたてて部屋の隅の暗がりに顔を向けました。 銃声がし、ピストルの銃弾がかすめました。 ベッドの傍らに、お楽しみの邪魔をされた大佐が怯えた表情で立っていました。 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 ハーパー軍曹がベッドの上の娘を見てつぶやきました。 「ほどいてやれ」 フランス将校は娘を指差して何か言っていました。シャープはすんなりこの男を殺してしまいたい、今は捕虜をとる余裕もない、と思っていましたが、娘を自由にしてやったハーパーに向かってその将校を見張るように命令をしました。 シャープは窓にかけ寄り、外の闇が静かになったのを確認しました。 やりおおせた! シャープが振り向くと、ほっそりとした黒髪の娘がフランス将校のサーベルを手に取り、股間にぐっさりとつきたてていました。 将校は恐ろしい苦痛の叫びを上げ、彼女は微笑しました。息をするのも忘れるほど、その表情は美しいものでした。 ハーパーは驚愕してその様子を見ていました。シャープはそれを無視しました。 「パトリック!連中を中に入れろ。窓を通らせろ!つぎのドアに行くぞ!」 娘は大佐につばを吐きかけ、罵声を浴びせ、彼を殺しきらなかったシャープに軽蔑のまなざしを投げかけました。 シャープはその猛禽類のような美しさに我を忘れかけましたが、銃声が彼を現実に引き戻しました。 彼女は大佐のサーベルを手にし、ドアを走り出、右に抜けて行きました。 シャープは警戒も忘れ、それを追い始めました。
by richard_sharpe
| 2006-08-24 16:06
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