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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第3章 シャープは指定された時間までの間、今回の任務がいったい何かということに思いをめぐらしていました。 何か、フランス軍の新しい兵器に関する情報を手に入れることだろうか。 英国陸軍大佐コングリーヴのロケット・システムみたいに、聞いたことはあるけれど見たことがある人はあまりいないといったような。 あるいは、お忍びでスペインに来ているらしい、ナポレオンの元妻のジョセフィーナとの政治的接触だろうか。 シャープは例の慇懃な少佐に、優雅な動作で広間に迎え入れられてからも、何となくそんなことを考えていました。 「ああ、シャープ大尉。憲兵隊のことはご存知だったね。こちらがきみも既に会っているアイレス中尉、こちらはウィリアムス大佐だ。よろしいかな?」 ウィリアムス大佐は顔に血管を浮き上がらせ、アイレスの代わりに口を開きました。 「恥ずべきことだ!シャープ、恥を知りたまえ!」 シャープは瞬きもせずにウィリアムスの頭上を眺めていました。 「きみは彼の任務の妨害をし、危険にさらした。領域を超えたことをしたわけだ。恥ずべきだ!」 「そのとおりです。遺憾に思っております!」 「なんだって?」 ウィリアムスは驚いたようにシャープを見、咳払いをしました。 「謝ると?」 「もちろんです。徹頭徹尾、謝罪させていただきます。私のとった行動は実に遺憾なものであります。アイレス中尉もご同様に感じておられると思います」 アイレスはいきなり微笑し、シャープにうなずきかけました。 「まったくです。そのとおりです」 「君自身が何を遺憾に思うというのだ、アイレス?これで満足だというのか?」 憲兵隊長はため息をつきました。 「それではこれで会見は終わりのようだ。大尉、きみの謝罪に対して礼を言う。では」 彼らは立ち去り、シャープは部屋に残ってウィリアムス大佐がアイレス中尉になにやら小言を言っているのを聞いていました。 やがてドアが開き、シャープの苦笑いは文句なしの微笑に変わりました。 マイケル・ホーガンがドアを締め、シャープに向かって微笑みかけました。 「期待以上の謝り方だったよ。元気かね?」 戦況は厳しいものでしたが、ホーガンはうまくやっているようでした。 彼はポルトガル語とスペイン語が堪能であることと、常識的感覚を持ち合わせているという特技でもって、ウェリントンの参謀本部に移動になっていました。 「で、あなたはここで何を?」 ホーガンは 「いろいろね」 と答えてシャープを見、そして大爆発のようなくしゃみをしました。 「キリスト様に聖パトリック!アイルランドの守護者たちよ!」 シャープはびっくりし、混乱した表情でホーガンを見つめました。 「アイルランドの聖者だけが、鼻づまりを治してくれるんだ」 「無駄でしょう」 「なかなか効かないんだ。・・・神様!」 ホーガンは再び力いっぱいくしゃみをし、涙を拭いました。 「で、ここでは?」 「たいしたことはやっていないよ、リチャード。探し物をしたり、地図を描いたり。そんなものさ。“インテリジェンス”というヤツだ。他の連中からはヘンなふうに聞こえるらしいが。リスボンから着いたばかりなんだ」 リスボン。 ジョセフィーナがいる。 ホーガンもそのことを思い出したらしく、 「ああ、彼女は元気だよ」 といいました。 ジョセフィーナはシャープがわずかの間愛し、彼女のために人を殺し、そして彼女は他の男と去って行ったのでした。 ジョセフィーナとクロード・ハーディー大尉の名前を、嫉妬と一緒にシャープは拭い去ろうとしていました。 「で、俺が今度将軍に持ってこなければならない物って、何なんです?」 ホーガンは何事かつぶやきました。 「俺にはスペイン語がわからないって、知っているでしょう」 「ラテン語だよ、リチャード。きみの無教養は悲惨なほどだな。キケロがこういっている。軍資金は際限がない」 「金ですか」 「黄金だ。バケツいっぱいの金だ。我々の欲しい物だ。欲しいというより、必要なんだ。我々は使い果たしてしまった。1年に8500万ポンドだ。もうないんだ」 「ない?」 ホーガンは肩をすくめました。 「ロンドンの、イギリス人どもの政府は清算を命令してきたのさ。ポルトガルに払い、スペイン軍を組織し、で、また金が必要なんだ。数日以内に必要だ。ロンドンから引き出そうとしたが、数ヶ月かかる。今必要なんだ」 「手に入らなかったら?」 「リチャード、もし手に入らなかったら、フランス軍はリスボンに至り、世界中の金を集めようが、我々にはどうでもいいということになる。だから、きみが行って金を取ってこなくちゃならん」 「俺が行って、金を取ってくる。どうやって?盗む?」 シャープはにやりと笑いました。 「借りる、かな?」 ホーガンの口調は、どこまでも真面目でした。彼がため息をつき、背をそらすのをシャープは黙って見ていました。 「問題は、その金が公式にはスペイン政府に属するものだということなんだ。どこに政府があると思う?マドリードにフランス軍と一緒に?それともカディスに?」 「で、金はパリに?」 ホーガンは疲れたように笑いました。 「そんなに遠くはない。2日行程のところだ。今夜出発したまえ。アルメイダに向かう。第16連隊が守備するコア川を渡れ。連絡は行っている。アルメイダではカーシー少佐に会い、彼の指揮下に入れ。1週間以上の猶予はない。これがきみのお墨付きだ」 ホーガンは途中からフォーマルな声音になり、一枚の紙をテーブルの上に広げ、シャープに押しやりました。 シャープ大尉は本官の直接の指揮下にあり、全ての同盟軍の将官はシャープ大尉の要望に従うことを要求される。 署名はただ ウェリントン とあるだけでした。 「金のことは?」 「おおっぴらに言わないほうがいい」 「いくらあるんです?」 「カーシーが伝える。運べる量だ」 「全く!何も教えてくれないんですね」 ホーガンは笑いました。 「あまりね。もう少し話そうか」 ホーガンは指を組んで両手を頭にあて、そっくり返りました。 「リチャード、戦況は悪化している。兵士が、大砲が、馬が、火薬が必要だ。敵は兵力を増強している。この状況を打開できるのは、金だけだ。いろいろ言えないことがある。今まで聞いたこともないほどの、大きな機密事項もある。いずれわかる。それは約束する。皆が知ることになる。だが、今は、とにかく金を持ってきてくれ」 そして彼らは深夜、手を振るホーガンを背に出発し、コア川が流れる谷をアルメイダに向けて出発したのでした。 警戒に立っていた歩哨によれば、そのあたりにはフランス軍の斥候は来ていないということでした。 しかし軽歩兵隊の兵士たちは、敵軍のことなど心配していませんでした。 もしリチャード・シャープが望むなら、敵軍の只中を突破して、パリにだって突き進む。 そういう盲目的な信頼がありました。 ただ、今回のシャープの口調はどこかおかしく、誰も何も言いませんでしたが、大尉が何かを心配していることは伝わってきていました。 ハーパーはシャープの傍らをコア川に向かって進みました。雨が川面を叩いていました。 「何かあったんですか?」 「何も」 シャープはホーガンとの会話を思い出していたのでした。 「どうして我々なんです?騎兵隊じゃないんですか?」 「騎兵隊はしくじったのだ。カーシーがいうには、あの地方には馬は向かないそうだ」 「フランス軍は騎兵隊なわけですよね?」 「きみらなら大丈夫だろうとカーシーは言っていた。とにかく、もっと早く金を取ってくるべきだった。リスクが大きくなっているんだ」 しばらく沈黙が漂い、蛾が飛んできて、机の上に止まりました。シャープはそれを叩き潰しました。 「我々が成功しないと思っていますね」 ホーガンは死んだ蛾から視線を上げました。 「ああ」 「では敗戦ですか」 ホーガンはうなずき、シャープは蛾を床に払い落としました。 「将軍はほかにも手立てがあるとおっしゃっていました。確信がおありのようでしたが」 「あの人に、ほかにどう言える?」 シャープは詰め寄りました。 「では4個師団送り込めばいいじゃないですか。全軍を!絶対に金を奪えるように」 「距離がありすぎる。道もないところをアルメイダまで進まなければならない。我々が何に興味を示しているのかがわかれば、フランス軍もほうっておかないだろう。戦いになる。圧倒的に数で負ける。きみらを送り込むしかないんだ」 そんなわけでシャープは今、失敗を予想しながら斜面を登り続けているのでした。 彼はカーシーの能力に期待するしかありませんでしたが、ホーガンはちょっと違う意見を持っているようでした。 「彼は優秀だ。優秀な将校の一人だ。しかしこの仕事に向いているとは言えんのだ」 カーシーは情報将校で、敵の防衛線の背後まで探索に出かけ、情報を送ってくる役目を負っていました。 カーシーが黄金を発見し、ウェリントンに報告し、彼だけがその正確な位置を知っており、適任であろうがなかろうが、彼がキーマンであることは確かなのでした。 コアの東岸の平地に出ると、東の空が明るくなってきて、アルメイダのシルエットが浮かび上がりました。 大聖堂と城砦が並び、それを中心に丘に町が形成されていました。 堅固な要塞で、攻めるとしたら周囲の平原に身をさらすしかなく、城砦は星型の砦をなして死角もありませんでした。 近づくにつれ、古い城壁とはべつに、最近築かれた防塁が姿を表し、実はそちらのほうが堅固な守りになっていることがわかりました。 緩やかな傾斜でしたが昇りきるまでが長く、息が切れ、シャープは自分がこのような要塞を攻める側ではないことをありがたく思いました。 要塞は戦いの準備を終えていました。 大砲から食糧にいたるまで、補給は万全でした。 コックス旅団長は丘の頂上の司令部の外で、兵士たちが火薬の樽を運ぶのを眺めていました。彼はシャープに敬礼を返しました。 「シャープ、会えて光栄だ。タラベラでのことは聞いている」 「ありがとうございます。準備万端のようですね」 コックスは嬉しそうにうなずきました。そして大聖堂に顔を向け、 「あれが倉庫なんだ」 といい、シャープは驚きました。コックスは笑い出しました。 「ポルトガルで最高の守備を誇る倉庫だ。ウィンザー城のように堅固な塔だよ。文句は言うまい。大砲も物資も十分ある。数ヶ月はカエルども相手に持ちこたえる」 「ところでカーシー少佐に報告に行かなければならないんですが」 「ああ、情報将校のね。神様のいちばん近くにいるよ」 シャープは戸惑いました。 「城のてっぺんだ。テレグラフのそばにいるから間違えずに済む。きみの部下たちには城で朝食を出そう」 「ありがとうございます」 シャープは塔の頂上を目指し、朝日の最初に光が差し込む「神様の近く」にテレグラフの機械があり、その傍らに聖書を手にして跪いている小男の姿を見つけました。シャープは咳払いをしました。 「サウス・エセックスのシャープです」 カーシーはうなずき、目を閉じて唇をすばやく動かしていました。やがて空を見上げて微笑み、それから厳しい表情でシャープに視線を移しました。 「カーシーだ」 彼は立ち上がりました。シャープよりも1フィートほど背が低く、それを熱意と正直さで補おうとしている人物のように見えました。 「シャープ、君に会えて嬉しい。タラベラの事は聞いている。よくやった」 「ありがとうございます」 カーシーはまるで2,3ダースのイーグルを奪ってきた男に対するかのような、大げさな敬意をこめようとしていました。彼は聖書を閉じました。 「きみはお祈りはするかね?」 「いえ」 「クリスチャンか?」 妙な会話でしたが、ときどきこういうことに使命感を燃やしている将校がいることをシャープは知っていました。 「そうだと思います」 「思うなんていうんじゃない!子羊の血であがなわれたかどうかということだ!後でそのことをゆっくり話し合おう」 「楽しみにしております」 カーシーはちらりとシャープを見ましたが、信用することにしたようでした。 「よく来た。何をするかわかっているな?カーサテハーダまで1日行程だ。黄金を取ってきて、英軍の戦列に運ぶ。わかったな?」 「質問が」 カーシーは既に階段に向かって歩き始めていましたが、シャープの言葉に立ち止まり、彼を見上げました。 長い黒いコートに身を包んだ彼は、コウモリのように見えました。 「何がわからないというのだ?」 「どこに黄金があるのか、誰のものなのか、どのようにそれを持ち出すのか、どこに運ぶのか、敵はそれを知っているのか、なぜ騎兵隊でなく我々なのか、そして、何にそれを使うのか」 「使い道だと?お前には関係ない。それはスペインの黄金だ。彼らが好きなように使う。使いたければ教会の聖像のためにでも使うだろうが、まさかそんなことはしないだろう」 彼はいきなり吼え始め、シャープはしばらくパニックに陥ったのち、カーシーが笑っているのだということを理解しました。 「大砲を買うだろう。フランス軍と闘うために」 「私は英軍のための黄金なのかと思っていました」 カーシーはまた犬の咳のような声を上げました。 「すまんな、シャープ。我々の?変わったことを言う。スペイン人のものだ。我々は無事にそれをリスボンに運び、そしてカディスまで軍艦で届けるだけだ。我々のものだと?」 カーシーが吼えている間、シャープはそのことについて今は議論する時でも、場でもないと思い定めました。 「で、今それはどこに?」 「カーサテハーダだといっただろう。スペインの黄金だ。スペイン政府からサラマンカの軍のために送られてきた。軍はもうなくなり、多額の金が敵のうようよいるところに残されたのだ。ありがたいことにいい人物が黄金を保管し、それを私に話してくれた。我々はその黄金をカディスに運ばなければならない」 「いい人物?」 「セザール・モレーノだ。ゲリラを率いている。サラマンカから黄金を運んできた男だ」 「いくらあるんです?」 「金貨で1万6千枚だ」 金額の多寡ではなく、その重さがシャープにとっては問題でした。 「なぜモレーノが国境まで運ばないんですか?」 カーシーは居心地の悪そうな表情をし、そしてきつい目つきでシャープを見ました。 「問題がある。モレーノの一党は少数で、他の党派に合流した。そしてその首領は我々と手を組むのを好まんのだ。モレーノの娘の婚約者で、人望もある。彼は我々が黄金を盗むと考えておるのだ!信じられるか?」 シャープには十分信じられました。ウェリントンには、もっと信じられるのではないかとシャープは思っていました。 「2週間前に失敗したのがまずかった。私の部下の騎兵を50人送り、つかまってしまったのだ。スペイン人たちに顔向けができなくなった。連中は我々が負けると思っているし、黄金を奪おうとしていると思っている。エル・カトリコは黄金を移動しようとしていて、私はもう一度チャンスをくれるように頼んでいるんだ」 「エル・カトリコ?」 「モレーノの娘の婚約者だ。カトリックという意味だ。敵を殺す前に、ラテン語の祈りを唱える。もちろん彼のジョークなのさ」 カーシー少佐は憂鬱そうでした。 「彼は危険な男なのだ、シャープ。退役将校で、闘い方を知っている。そして我々に巻き込まれたくないと思っている」 シャープは大きく息を吸い込み、北の岩の多い風景を見つめました。 「それでは、黄金は1日行程の場所にあり、モレーノとエル・カトリコに守られていて、我々の任務はそれを持ってきて、国境まで安全に運ぶということですね」 「そのとおり」 「モレーノ自身でここに持ってこないのはなぜですか?」 「彼は自分の兵士とパルチザンたちに目を光らせておかねばならんのだ」 カーシーは立ち上がり、コートを脱ぎました。そのユニフォームはプリンス・オブ・ウェールズ竜騎兵隊のものでした。 ジョセフィーナの愛人の、クロード・ハーディー大尉と同じでした。 「モレーノは我々を信用している。エル・カトリコだけが問題だ。まあ、彼はハーディーと懇意だからな。うまくいくだろう」 「ハーディー?」 シャープは思いがけずその名前が出てきたことに驚きました。 「クロード・ハーディー大尉だ。知っているのか?」 「いいえ」 嘘ではありませんでした。シャープはハーディー大尉がジョセフィーナと立ち去っていくのを眺めていただけでした。 「ほかに何かあるかね?」 「ありません」 「よろしい。今夜9時に出発する。一つ言っておく。私はここを知り抜いている。きみはよそ者だ。私に従ってもらう。フランス軍に攻め込まれない限り、日没の祈祷を行う。9時に、北の城門だぞ」 シャープの敬礼に答えると、カーシーは階段を駆け下りていきました。 シャープは胸壁に寄り、眼下を見下ろしました。 ジョセフィーナ。ハーディー。 彼はジョセフィーナがくれたイーグルをかたどった指輪を回しました。 彼は彼女を忘れようとしてきて、彼女は彼に値しないと思おうとしてきたのでした。 そして黄金と、エル・カトリコと、セザール・モレーノのことだけを考えようとしていたのに、その仕事を一緒にやるのがジョセフィーナの男だと? 「あのあばずれ!」 とシャープはつぶやき、テレグラフの当番のためにやってきた海尉候補生を驚かせました。 「なんですか?」 「欲張りには金を、嫉妬には女を、フランス人には死を。違うか?」 「そのとおりです」 その背の高い男が階段を下りていくのを見ながら、少年は前に陸軍に志願しようとした時、父親が 「陸軍なんてキチガイばっかりだ」 と言っていたことを思い出しました。 親父はいつも正しいな。と、彼は思いました。 事件の発端になりそうなところだったので、あまり省略せずに訳しました。 長くてすみません。。。
by richard_sharpe
| 2006-08-09 18:48
| Sharpe's Gold
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