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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 7 議論はその午後にももう一度繰り返されました。 ラペーニャは夜の行軍を望みましたが、サー・トーマスはすでに敵に近づきすぎており、疲れきった兵士たちが不慣れな土地で手探りに進み、戦力を蓄えた敵に不意打ちをかけられることになると抗議しました。 「それでは夕方に進軍することにしよう」 と、ラペーニャは寛大なところを見せました。 「そして真夜中には露営する。サー・トーマス、夜明けには十分休みを取れているだろう。準備もできているだろう」 しかし夜半を過ぎ、夜はさらに更けてゆき、夜明けになってもまだ彼らは行進を続けていました。再び、道を見失ってました。 軍勢は停止し、休み、目覚め、進み、さらに停止し、進み、方向転換し、数分間だけ快適でない休憩を取り、目を覚ましてさらに自分の足跡を逆にたどりながら進みました。 兵士たちは背嚢や雑嚢、カートリッジボックス、武器で山盛りになり、急がなくてはならなくても、どんなときでも立ち止まったときにその荷物をはずそうとはしませんでした。誰もきちんと休んでいなかったので、夜明けにはみんなくたくたに疲れていました。 サー・トーマスは部下たちの脇を砂埃を上げながら馬で駆けて行き、ラペーニャ将軍を捜していました。 行軍は再び止まっていました。 レッドコートの兵士たちは道端に座り込み、休みを取れないのはラペーニャ将軍の制だというような憤慨した目で彼を見ていました。 ラペーニャ将軍とその参謀たちは茂みのある小さな丘の上にいて、そこでは10人あまりの民間人が口論をしていました。 「彼らは?」 「もちろん、われわれのガイドだ」 「それで彼らは道がわからないと?」 「わかっている」 と、ラペーニャは言いました。 「ただ彼らは違う道を知っているのだ」 ラペーニャは微笑し、仕方ないというように肩をすくめました。 「海は?」 と、サー・トーマスは問いただしました。 気難しい顔つきでガイドたちはサー・トーマスを見て、彼らは皆いっせいに西を指差し、そちらに海があることに同意しました。 「それならわかるはずだ」 サー・トーマスは曙の光に満たされた東の空に向かってうなずきながら、苦々しげに言いました。 「太陽は東から昇ると決まっているし、海は西にある。ということはバルロッサに向かうわれわれの道は、あっちにある」 彼は北を指差しました。 ラペーニャは立腹したようでした。 「サー・トーマス、夜には太陽は導いてくれない」 「夜に進軍しようなどというからこういうことになるのだ!' サー・トーマスは突っかかりました。 「道に迷ったのだ」 再び進軍が始まり、ヒースの茂みが松林と一緒に散らばっている荒地を横切っている小道をたどり始めました。 太陽が昇ると、すぐに海が見えてきました。 小道は長く続く砂浜の上を北に向かっていました。海のはるか遠くに一隻の船が南に向かっており、その帆柱の上の部分だけが見えていました。 サー・トーマスは先を行く自分の旅団の内陸側で馬を進めていましたが、砂まみれの丘を登り、海岸に沿って3つの望楼が並んでいるのを見ました。それはムーア人の海賊たちがジブラルタルから殺人、略奪、奴隷調達のためにやってきていた時代の遺物でした。 「サー・トーマス、いちばん近いのがプエルコの塔です」 と、連絡将校が言いました。 「その次がバルロッサの塔で、いちばん遠いのがベルメハです」 「コニールはどこだ?」 「ああ、われわれは夜のうちにコニールを迂回しました」 と、連絡将校は言いました。 「今ではわれわれの背後にあります」 サー・トーマスは首をたれ、黙って行進している疲れきった部下たちに目をやりました。そしてもう一度北に目を向け、ベルメハの塔の向こうのカディスに通じる長い海峡の白くかすむ水平線を見ました。 「われわれは時間を無駄に使ったのだな?」 と、彼は言いました。 「いいえ、そんなことはありません、サー・トーマス。ラペーニャ将軍は攻撃を意図しておられると確信しています」 「彼は家に帰ろうとしているのだ」 と、サー・トーマスは疲れたように言いました。 「きみもそれを知っている」 彼は鞍頭に寄りかかりました。63年のこれまでの人生が、一時に感じられました。 彼は、ラペーニャが家路を急いでいることをいまやはっきりと理解しました。 老婦人はフランス軍を攻撃するために東に進路を変えるつもりはない。彼はただカディスに帰りたかっただけだ。そしてそこで、ヴィクトール元帥と対抗してアンダルシアを横切ってきたことを自慢するでしょう。 「サー・トーマス!」 ウィリアム・ラッセル卿が将軍に向かって馬を駆けさせてきました。 「あそこです」 ウィリアム卿は北と東を指差しました。彼は望遠鏡をサー・トーマスに渡し、将軍はウィリアム卿の肩を借りて不安定な望遠鏡から敵の姿を見ました。 竜騎兵ではなく、歩兵部隊でした。木立に半分隠されていましたが、大部隊でした。 「チクラーナの守備隊ですね」 と、連絡将校が確認しました。 「あるいはわれわれを阻むために進撃してきた軍かも知れん」 と、サー・トーマスは示唆しました。 「チクラーナに彼らの歩兵部隊がいるのはわかっています」 と、連絡将校は言いました。 サー・トーマスには歩兵部隊との間のどれくらいの距離があるのか、彼らが進んできているのかどうかもわかりませんでした。彼は望遠鏡を縮めました。 「ラペーニャ将軍のところに行ってくれ」 と、彼は連絡将校に言いました。 「私からの敬意を伝え、そしてわれわれの右翼にフランス歩兵がいると言ってくれ」 連絡将校は馬の向きを変えました。しかしサー・トーマスは彼を止めました。 このスコットランド人は前方を見ていて、内陸にはバルロッサの遺跡がある丘がある場所に軍を配置すべき場所があることを知りました。 それは明らかに、フランス軍が攻撃を計画しているとしたら兵士を配置するであろうという場所でした。 ヴィクトールの主力を丘で戦わせ、彼らを斜面で迎え撃ち、そして彼らを撃破して、チクラーナに進む。 「将軍にこう言ってくれ」 と、彼は連絡将校に言いました。 「われわれは彼の命令があれば直ちに方向転換し攻撃をかける準備ができていると。行け!」 連絡将校は全力で駆け出しました。 サー・トーマスは再びバルロッサの丘に目を向け、つかの間だが遠かったこの惨めな作戦も、まだ何とかなるかもしれないと思っていました。 しかしそのとき、前方遠くから銃声が聞こえました。 その音は風の中で上がっては消え、時折波音と聞き間違えるようでしたが、間違いなくマスケット銃のとがったはじけるような音でした。 サー・トーマスは鐙に立ち上がり、目を凝らしました。 彼はどこか戦いが始まった場所で煙が上がるのを待っていました。そして、やっとそれを見つけました。 それは3番目の塔の向こう側の海岸でしたが、街に戻る船橋の近くでした。 それは、フランス軍がすでに彼らとカディスを結ぶ道筋を占拠し、そしてさらに悪いことに、内陸側から攻撃してくるに違いないということでした。 ヴィクトール元帥は連合軍を彼が望んだとおりの場所に持ってきたのでした。彼の軍勢と海岸との間に。 彼はスペイン軍と英軍を、掌中にしたのでした。
by richard_sharpe
| 2008-10-17 20:22
| Sharpe's Fury
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