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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 6 サー・トーマス・グレアムは、いつになく明るい様子のラペーニャ将軍を見つけました。 このスペイン軍指揮官は、日当たりがよく北風を防ぐ農家を本部とし、屋外で昼食のテーブルについていました。 3人の参謀とベヘールへの途上で捕虜にされたフランス人大尉が同席していました。 5人はパンと豆、チーズとハム、そして石製の瓶に入ったワインをとっていました。 「サー・トーマス!」 ラペーニャは彼に会えて嬉しいように見えました。 「ご一緒にどうです?」 彼はフランス語を話していました。サー・トーマスがスペイン語を話せることはわかっていましたが、彼はフランス語を話すことを好みました。つまり、それはヨーロッパの上流階級がコミュニケーションをとる場合の言語だからなのでした。 「コニール!」 サー・トーマスは礼儀作法に煩わされる余裕がないほど腹を立てていました。彼は鞍から滑り降りると手綱を当番兵に投げ渡しました。 「コニールへ進軍するおつもりか?」 と、彼は非難がましく言いました。 「ああ、コニール!」 ラペーニャは指を鳴らして召使にもう一脚椅子を農家の中から持ってくるように合図しました。 「コニール出身の軍曹がいまして」 と、彼は言いました。 「イワシ漁のことを話してくれたものだ。自然の恵みだ!」 「なぜコニールに?そんなにイワシが食べたいと?」 ラペーニャは悲しげな目でサー・トーマスを見ました。 「ブルール大尉に逢っておられなかったかな?もちろん彼は(逃亡しないという)宣誓の上でここにいるのだが」 フランス軍のブルーのユニフォームを着て帯剣したその大尉は、痩せて背の高い男で、知的な顔つきをしていました。 彼は厚いまぶたに半分隠れた、潤んだ瞳の持ち主でした。 彼は立ち上がり、紹介されるとサー・トーマスにお辞儀をしました。 サー・トーマスは彼を無視しました。 「コニールに進軍する目的は何ですかな?」 彼は尋ね、テーブルに手をついたのでラペーニャを見下ろす形になりました。 「ああ、チキンだ」 ラペーニャは農家の中からロースト・チキンを持ってきてテーブルに置いた女を見てほほ笑みました。 「きみが切り分けるかね?」 「光栄です、閣下」 ブルールは申し出ました。 「こちらこそ光栄だよ、大尉」 ラペーニャは言って、肉切りナイフと長いフォークを儀式ばったやり方でフランス人に渡しました。 「われわれは船を雇った」 と、サー・トーマスはラペーニャの隣に持ってこられた椅子を無視してうなりました。 「そして、 艦隊が集まるのを待った。風が変わるのを待った。南に進路をとり、フランス軍の後衛に攻め込むためにタリファに上陸した。そして今、コニールに向かうと?まったく、何のために艦隊に悩まされたのだ?コニールに向かうなら、なぜサンクティ・ペトリ川を渡ってまっすぐ向かわなかった?それなら一日は行程が短くなり、船など必要なかったのだ!」 ラペーニャの参謀たちは怒ったようにサー・トーマスを見つめていました。ブルールは肉を切っていることに集中してその会話を無視しているふりをしていました。彼は完璧にその作業をこなしていました。次々と美しく肉が切り落とされていきました。 「事情は変わる」 と、ラペーニャはあいまいな言い方をしました。 「何が変わったと?」 サー・トーマスは詰問しました。 ラペーニャはため息をつきました。 彼は参謀の1人に指を向け、参謀はようやく上官が地図を見たがっているということに気づきました。 皿が片付けられて地図が広げられ、サー・トーマスはその地図が自分に渡されたものよりもずっと出来がいいことに気づきました。 「私たちはここにいる」 とラペーニャは言って豆をひとつベヘールのすぐ北に置きました。 「そして敵はここだ」 彼は豆をもうひとつ、チクラーナの上に置きました。 「そして敵にアプローチするに3つの道がある。一つ目の、もっとも長いのが東に向かうもので、メディナ・シドニアを通っている」 さらにもうひとつの豆がその町を示すために置かれました。 「しかしご存知のようにそこにはフランス軍が守備隊を置いている。違ったかな、ムッシュー?」 彼はブルールに問いかけました。 「強力な守備隊です」 と、ブルールは外科医のような手さばきで鳥の足をはずしながら言いました。 「したがって、われわれはここにいるビクトール元帥の軍勢と 」 とラペーニャはチクラーナの豆に触れ、 「ここの守備隊の間にいることになる」 と、メディナ・シドニアを示しました。 「サー・トーマス、第2の道をとれば、われわれは守備隊を避けることができる。ここから北に向かい、チクラーナへは南から接近する。状態の悪い道で、まっすぐには向かわない。この丘の間を上っていく」 彼は人差し指で地図の上のしるしをたたきました。 「そしてフランス軍は歩哨を置いているだろう。違うかな、ムッシュー?」 「たくさんの歩哨を」 ブルールは言い、鎖骨をはずしました。 「将軍閣下、あなたのシェフに鳥は料理する前に鎖骨をはずしておいたほうが切り分けやすいとお伝えになったほうがいいかと」 「それはいいことを聞いた」 ラペーニャは言い、それからサー・トーマスを振り返りました。 「歩哨はわれわれの接近をヴィクトール元帥に知らせるだろうし、そうすると彼はわれわれに備えて準備することになる。彼はわれわれよりも数において勝っている軍をこちらに向けるだろう。すべてのことを考え合わせると、サー・トーマス、私はこの道を使うことはできない。祈りにすべてを任せるほかないからだ。しかし幸いなことに、3番目の道がある。海沿いに進む道だ。ここは」 ラペーニャは言葉を切り、4つ目の豆を海岸に置こうとして 「この場所は・・・」 と、ためらいました。どこに豆を置けばいいか、地図上の場所がわからなかったのです。 「バルロッサです」 と、参謀の1人が言いました。 「バルロッサ!そう、そこはバルロッサと呼ばれている。サー・トーマス、ここから荒地を横切ってチクラーナに向かう道がある」 「そしてフランス軍は、われわれがその道を使うことを知るだろう」 サー・トーマスは言いました。 「そしてわれわれに備えるだろう」 「その通り!」 ラペーニャはサー・トーマスの初歩的なポイントへの理解を喜んだようでした。 「しかしここは、サー・トーマス」 彼の指はサンクティ・ペトリ川の河口に向かって動きました。 「ザヤス将軍が全軍を率いて駐留している。もしわれわれが・・・」 と、彼は再びためらいました。 「バルロッサです」 と、参謀が言いました。 「バルロッサへ進軍すれば」 ラペーニャは力をこめて言いました。 「ザヤス将軍と合流できる。両軍がそろえばフランス軍を圧倒できる!チクラーナには守備隊は何師団いるんだったかな?2師団?」 彼はブルールに問いかけました。 「3師団です」 「3師団!」 ラペーニャは驚いたようでしたが、手を振ってその知らせを払いのけるようにしました。 「2師団?3師団?そんなことはどうでもいいではないか。われわれは側面から彼らに攻撃を仕掛けるのだ!」 と、ラペーニャは言いました。 「われわれは敵に西側から接近し、彼らを撃破して勝利を収める。私の熱意を許してくれ、大尉」 と、彼はブルールに向かって付け加えました。 「彼を信用しているのか?」 サー・トーマスはフランス人のほうに頭を向けながらラペーニャに尋ねました。 「彼は紳士だ!」 「ポンティウス・ピラトもそうだった」 サー・トーマスは言いました。彼は大きな指を海岸線に沿って滑らせました。 「この道を使い、わが軍をフランス軍と海の間に置く。兵士たちが波に溺れるのを見たいのか?」 「それではあなたの提案は?」 ラペーニャは冷ややかに尋ねました。 「メディナ・シドニアに進軍する。そして守備隊をたたく」 彼はその町の上に置かれた豆を食べるために言葉を切りました。 「あるいは、彼らを壁の背後に追い込む。包囲ラインを攻撃するのだ。われわれがヴィクトールに向かって進むのではなく、彼にこちらに向かって進ませる」 ラペーニャは不思議そうにサー・トーマスを見ました。 「私はあなたを賞賛している」 彼はちょっと黙った後に言いました。 「本当だ。あなたの熱意、インスピレーション、われわれ皆そうだ、サー・トーマス」 参謀たちは厳粛に合意を示しました。ブルール大尉でさえ、丁寧に頭を下げました。 「しかし説明させていただければ」 と、ラペーニャは続けました。 「フランス軍は、これには同意なさるだろうが、ここにいる」 彼は片手にいっぱいの豆を、カディス湾の三日月形に沿って、南のチクラーナからトロカディロ湿原の3つの砦にいたるまで、並べました。 「もしわれわれがここから攻撃すれば」 ラペーニャはメディナ・シドニアからの道を指でたたきました。 「されされは彼らの包囲線の中央を襲うことになる。確かにわれわれはよい戦果を挙げるだろうが、敵は両側からわれわれに集中するだろう。包囲される危険を冒すことになる」 彼は片手を上げ、サー・トーマスの抗議を押しとどめました。 「もしわれわれがここから向かえば」 ラペーニャは今度はベヘールからの道を示しながら続けました。 「われわれはチクラーナをめざすことになるが、そこには何もないだろう。全く何もない。フランス軍はわれわれの右翼から進軍してくる。しかし東からなら、この・・・」 「バルロッサです、セニョール」 「バルロッサからなら、彼らの側面から突ける。打ちのめすことができる!」 と、ラペーニャは続けました。 彼は攻撃の力を現そうとして、両手を強く打ち鳴らしました。 「彼らはそれでもわれわれに向けて進軍を続けるだろう。もちろんそうだ。しかし彼らは街を通り抜けなければならない!それが困難なことを彼らは気づくだろうし、街路をうろうろしているうちにヴィクトールを撃破することができる。ここだ!わかっていただけたかな?」 彼は微笑しましたが、サー・トーマスは何も言いませんでした。何もいうことがなかったのではなく、礼儀を考えて迷っていたのでした。 「それに加え」 と、ラペーニャは続けました。 「私はここで指揮を執るが、というのもわれわれが望んでいる勝利を得るためには、海岸線を進むことが最良だと信じるからだ。われわれが艦隊に合流したときには、そのことはわかっていなかった。しかし指揮官の義務として、常に事態にあわせられなければならない。そうではないかな?」 彼は答えを待ってはいませんでした。その代わりに空いたままの椅子をたたきました。 「さあ、一緒にチキンをどうかな、サー・トーマス。水曜日からここを借りているが、これが最後の肉なのだ」 「肉がどうした」 と、サー・トーマスは英語で言い、馬で戻っていきました。 ラペーニャはその後姿を追っていましたが、黙って首を振りました。 その時、ブルール大尉はバルロッサの上の豆を親指でつぶし、そのまま海岸に向かって赤い染みを擦り付け、まるで地図が血で汚れたかのように見えました。 「ああ、私はなんて不器用なんだ」 と、ブルールは訴えました。 「ただどけようと思っただけだったのですが」 ラペーニャは損な小さな出来事に混乱させられたりはしませんでした。 「悲しいことだ」 と、彼は言いました。 「全能の神はわれわれに同盟国として英国をお与えになった。彼らは」 と、彼は言葉を切りました。 「全く不愉快だ」 「鈍い生き物ですよ」 と、ブルール大尉は共感しました。 「フランスやスペインの民族に共通する繊細さが欠けているのです。チキンをお取りしましょうか?胸肉はお好きですか?」 「きみの言うとおりだ!」 と、ラペーニャ将軍はフランス人の洞察力に喜んで言いました。 「繊細さがないのだ、大尉、器用さがない」 彼は黙って言葉を捜しました。 「優雅さがない。胸肉ですと?なんときみは気が利くのだ。ありがとう」 そして彼は決意を固めていました。 カディスへ戻る海岸への道をとる。コニールへ進軍する。
by richard_sharpe
| 2008-10-15 18:06
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