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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 5 「昨夜、きみのご友人を見かけた」 と、ガリアーナ大尉がシャープに言いました。 「俺の友人?」 「バチカのダンス・パーティーで」 「ああ、カテリーナか」 と、シャープは言いました。カテリーナは貸し馬車に乗り、金でいっぱいの鞄を持ってカディスに帰ったのでした。 「彼女が未亡人だと、きみは言っていなかったな。セニョリータと呼んでいたじゃないか」 と、ガリアーナはなじるように言いました。 シャープは目を見張りました。 「未亡人?」 「彼女は喪服を着て、黒いベールで顔を覆っていた」 と、ガリアーナは言いました。 「だからもちろんダンスには加わらなかった。ただ見ていた」 ガリアーナとシャープは、カディス湾の板でできた突堤の上にいました。 北風は塩田につながれた囚人船からの悪臭を運んできていました。警備艇が2艘、廃船の脇をゆっくりと漕ぎ進んでいました。 「彼女は踊らなかったって?」 と、シャープは尋ねました。 「未亡人だからな。早すぎるんだ。夫を亡くして3ヶ月だと彼女は言っていた」 と、ガリアーナは言葉を切りました。そして、海岸線で馬を走らせていたカテリーナは、服装も態度も家族を失ったばかりのようには見えなかったことを思い出していました。しかし彼は、そのことについては何も言わないことに決めたようでした。 「彼女は私にとても感じよく接してくれた」 と、彼は代わりに言いました。 「私は彼女が好きだな」 「彼女は人好きがするからな」 と、シャープは言いました。 「きみのところの准将もいたよ」 と、ガリアーナは言いました。 「ムーンか?うちの准将じゃない。それにあいつはダンスはまだできないと思っていた」 「松葉杖をついていたよ」 と、ガリアーナは言いました。 「それで、彼は私に命令をよこした」 「あんたに?彼はあんたに命令することなんかできないはずだぞ!」 シャープは石を水に投げ込みました。波を切ってバウンドさせたいと思ったのですが、すぐに沈んでしまいました。 「やつに地獄に行ってそこにずっといてくれと言っておいてほしかったな」 「命令というのは」 と、ガリアーナはユニフォームのポケットから1枚の紙を取り出し、シャープに渡しました。驚いたことに、その命令の宛名はシャープになっていました。 紙はダンス・カードで、文字は鉛筆でいい加減に殴り書きしてありました。 シャープ大尉とその指揮下にある兵士たちは、次の命令もしくはグレアム中将がイスラ・デ・レオンに無事帰還するまでリオ・サンクティ・ペトリに駐留すること。 シャープはその走り書きを二度読み返しました。 「ムーン准将が俺に命令をする権利があるのかわからない」 と、彼は言いました。 「しかし命令は命令だ。そしてもちろん、私も同行する」 ガリアーナ大尉は言いました。シャープはダンス・カードを彼に返し、何も言わずに二つ目の石を投げましたが、それは1回撥ねただけで草地に消えました。 優秀な砲兵は、砲弾の効果を上げるためにバウンドさせるやり方を心得ています。砲弾は地面をかすり、砂煙を上げ、そして勢いをつけて転がって流血を拡大する。 「警戒中なんだ」 と、ガリアーナはカードを折りたたみながら言いました。 「何に対して?」 ガリアーナは医師を選び、勢いをつけてすばやく投げ、それが10回以上も撥ねていくのを見ていました。 「サンクティ・ペトリを渡る橋は、ザヤス将軍が4大隊で守備している。彼は、街から出てくるものは誰であろうと橋を渡らせないようにという命令を受けている」 「前に聞いた」 と、シャープは言いました。 「だがなぜあんたまで止められるんだ?」 「アフランサドスという輩が街にいる。知っているか?」 「フランス側の連中だな」 ガリアーナはうなずきました。 「嘆かわしいことに、そのうちの何人かは守備隊の将校なんだ。ザヤス将軍はそういう連中が敵に内通しないように阻止する命令を受けているんだ」 「やりたいやつにはさせておけよ」 と、シャープは言いました。 「食い扶持が減る」 「しかし、将軍は英軍を止めることはない」 「前にもそう言っていたな。そして俺はあんたに手を貸すと言った。それでどうして、ムーンのやつからの命令が必要なんだ?」 「わが軍では、命令なしで好き勝手に動くことはできない。命令が必要なんだ。そして、今きみは命令を受けた。だからきみは私を連れて川を渡ることができ、私は軍に合流できる」 「で、あんたは?命令を受けたのか?」 と、シャープは尋ねました。 「私が?」 ガリアーナはその質問に驚いたようでした。そのときフランス軍の迫撃砲がトロカデロから発射され、彼は少しの間黙りました。 その音は鈍く単調に湾を横切り、シャープはどこかに砲弾が落ちるだろうと待っていましたが、爆発音は聞こえませんでした。たぶん海に着弾したのでしょう。 「命令は受けていない」 と、ガリアーナは認めました。 「ではなぜあんたは行こうとするんだ?」 「フランス軍を撃破しなければならないからだ」 ガリアーナはいきなり力をこめました。 「スペインは自由でなければならない!それなのに私はきみの准将やあの未亡人と同じだ。ダンスに加われない。ラペーニャ将軍は私の父を憎んでいて、私のことも毛嫌いして、手柄を立てさせまいとしている。だから私は後方に残されてしまった。だが私は後方にとどまるつもりはない。私はスペインのために戦うのだ」 最後の言葉は情熱で胸を打つほど強いものでした。 シャープは迫撃砲の煙が湿地帯に向かって流れていくのを見ていました。 彼は自分が同じように心から英国のために戦うと言っているところを想像しようとしましたが、できませんでした。 彼は自分が上手くできることのすべては戦いだから戦い、得意だから戦い、部下たちへの義務を負っているから戦っているのでした。 そして、彼はライフルマンたちのことを考えました。 彼らはサン・フェルナンドの酒場から引き離されるこの命令に不満だろう。しかし命令には従わなければならない。 「俺は・・・」 と、彼は言いかけましたがすぐに黙り込みました。 「なんだ?」 「なんでもない」 シャープは言いました。 彼は部下たちに自分たちの任務ではない命令を下すことはできないといおうとしたのでした。 シャープはもしヴァンダールを見つけたら戦いを挑むでしょうが、それは個人的な問題で、ライフルマンたちは腹に一物あるわけではないし、自分たちの連隊ははるか遠くで、しかしそれを全部ガリアーナに説明するのは複雑すぎました。 その上、シャープがガリアーナの部隊と同行するというのも変な話でした。このスペイン人を連れて川を渡るにしても、連合軍と出会えなければ部下を連れて戻ることになるでしょう。 ガリアーナはラペーニャを捜して荒野を馬で行くことができますが、シャープと部下たちには馬などという贅沢品はありませんでした。 「あんたはムーンに全部話したのか?」 と、シャープは尋ねました。 「戦いたいと思っていることを」 「私はラペーニャ将軍に合流したいことと、もし英軍部隊と一緒ならザヤスも私をとめることはできないだろうということを話した」 「で、彼はただで命令を書いてくれたのか?」 「乗り気ではなかった」 と、ガリアーナは認めました。 「しかし彼は私に頼みごとをしたがっていてね。それで私の頼みを受けてくれたんだ」 「やつはあんたに頼みごとがあったと」 シャープは言い、そしてそれが何かということがわかって微笑しました。 「で、あんたはその未亡人を彼に紹介したというわけか?」 「その通り」 「そしてやつは金持ちだ」 と、シャープは言いました。 「すごく金持ちだ」 彼はもうひとつ石を投げました。 カテリーナは准将の身ぐるみをはがしてしまうだろうと考えながら。
by richard_sharpe
| 2008-10-12 15:20
| Sharpe's Fury
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