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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 4 ラペーニャ将軍の参謀の1人は竜騎兵に気づき、彼は、騎兵たちが土手道の向こうのオリーブの茂みに向かっていくのを見ていました。 ラペーニャは望遠鏡を借り、参謀の馬をそばに立たせ、彼の肩に望遠鏡を乗せて固定しました。 「ドラゴネス」 と、彼は苦々しげに言いました。 「そう大勢ではない」 と、サー・トーマスは無愛想に言いました。 「それにずっと遠くだ。全く、大砲はまだどうにもならないのか?」 まだどうにもなりませんでした。6フィートの長さの砲身を持つ9ポンド砲は、しっかるとはまりこんでいました。ほとんど水につかり、左の車輪と砲の後尾だけが見えていました。馬の1頭は激しく暴れ、砲手はその頭を水につからないように努力していました。 土手道のふちに配備されていたライフルマンたちは他の馬たちを抑えていましたが、馬たちは恐怖に駆られており、パニックを起こした馬はさらに荷車を洪水の中に引きずり込む可能性がありました。 「砲身からはなれろ!」 とサー・トーマスは怒鳴り、しかしその命令の効果はなく、彼は土手道のほうに馬を向けました。 「あと12人必要だ!」 彼は手近の歩兵隊に向かって叫びました。 ポルトガル歩兵の一隊が、動けない大砲の傍らに馬を回したサー・トーマスに従いました。 「どうなってる?」 と、彼はぶっきらぼうに尋ねました。 「この下に溝があるようです」 と、少尉が答えました。彼は沈んだ車輪にしがみついており、その重たい武器が自分の上に倒れこんでくることを怖れていました。 「車輪が溝にはまっています」 少尉は付け加えました。軍曹と、3人の砲兵たちが大砲に取り付き、何とか持ち上げようとしていました。わずかに砲は動き、そしてなんとか車輪の前方を押し上げました。砲身は傾斜しているため、後部はすっかり水につかりってしまいました。 サー・トーマスはベルトをはずして鞘とポーチと一緒にウィリアム卿に投げ渡しました。ウィリアム卿は上官に従って土手道についてきていたのですが、サー・トーマスはさらに帽子も渡しました。白髪が風になびきました。彼は鞍から滑り降りると、胸まで灰色の水につかりました。 「テイ川ほど冷たくはないな」 と、彼は言いました。 「みんな、いくぞ」 サー・トーマスは車輪に肩を押し付けました。 ライフルマンたちやポルトガルの兵卒たちも、笑みを浮かべて彼に従いました。 ウィリアム卿は、将軍が馬たちをなぜ離れさせたのか不思議に思いましたが、やがてそれが大砲が前方に飛んで兵士を押しつぶすことを怖れたためだとわかりました。 ゆっくり、しかし確実にことは進んでいきました。 「背中を使え!」 と、将軍は周りの兵士たちに叫びました。 「持ち上げろ!いまだ!」 大砲は動き、砲身が現れました。そして右側の車輪も水から出てきました。 ライフルマンの一人が足場を失って滑り、背中から倒れて車輪のスポークに引っかかりました。 道の上にいた砲兵たちは皮ひもで綱引きのように車を引きました。 「さあ、出てきたぞ!」 と、サー・トーマスは勝ち誇って叫びました。大砲は縁を上がって道の上に転がりました。 「引っ掛けろ!」 サー・トーマスは言いました。 「よし、動かすぞ!」 彼はびしょぬれのズボンで両手を拭き、馬に乗ろうとしましたが濡れた服の重さに手間取り、ポルトガル軍曹が駆け寄って手を貸しました。 「おかげで助かった。ありがとう」 と、サー・トーマスは鞍にまたがりながら彼に硬貨を手渡しました。 「ざっとこんなものだよ、ウィリー」 「危うく死んでしまうところでしたよ」 ウィリアム卿は心配そうに言いました。 「ああ、そうだな。もしそうなってもホープ少佐が私の遺体をどうすればいいか心得ている」 サー・トーマスは言いました。彼はずぶぬれでしたが、荒っぽく笑いました。 「冷たい水だったぞ、ウィリー!途方もなく冷たかった!歩兵たちに服を着替えさせなければならん」 彼はいきなり笑い出しました。 「ウィリー、私がほんの子供だったころ、テイ川に狐を追い詰めたことがあった。猟犬たちはただ吠え立てるだけでな。だから私が馬を川の中に乗り入れて、素手で狐を捕まえたんだ。自分はヒーローだと思ったものさ!叔父は私に鞭をくれたよ。猟犬のまねをするなといわれた。でもやらなくてはならん時はあるんだ。時によって、やらねばならんことがある」 竜騎兵は堤防の北から近づくことはなく、キングス・ジャーマン・レジオンの軽騎兵たちが駆けていくと、さらに遠ざかりました。スペイン歩兵部隊は相変わらず痛々しいほどゆっくりと道を渡り、全軍が進軍を始める前に日が暮れてしまいました。 街道はベヘールの街の明かりが瞬く方向になだらかに上っており、軍勢は街の北を通ってオリーブの茂みが広がる場所に野営を設置し、サー・トーマスもようやく濡れた服を乾かし、暖を取ることができたのでした。 物資徴発部隊が翌日出かけていき、痩せた子牛や子をはらんでいる雌羊、頑固なヤギを連れて戻ってきました。 サー・トーマスは即刻の出発を望み、やきもきしていました。彼はジャーマン軽騎兵隊とともに丘のほうに偵察に出かけたりしました。北と東には敵の騎兵が活発に活動していました。 スペイン騎兵小隊が川岸を下ってサー・トーマスの部隊に合流しました。 その指揮官は黄色い上下に赤い胸当てのついたブルーのジャケットを着た大尉で、彼はサー・トーマスに挨拶をしました。 「敵はこちらを伺っています」 と、サー・トーマスがスペイン語を話せないと思っていた大尉はフランス語で言いました。 「彼らの任務だ」 と、サー・トーマスはスペイン語で答えました。彼は初めてカディスに配属されたときにスペイン語を学んだのでした。 「サラーサ大尉です」 と、スペイン将校は名乗りました。そしてサドルバッグからタバコを取り出し、部下が火打ち箱でつけた火に身をかがめました。 「命令を受けました。敵に遭遇しないようにと」 と、彼は言いました。 サー・トーマスはその声に陰鬱な調子を聞き取り、サラーサが葛藤を感じていることに気づきました。 彼は丘の上まで部下を率い、フランスの騎馬哨兵に挑戦させたかったのです。 騎馬哨兵は騎兵の中の歩哨を勤める兵士でした。 「命令を受けていると?」 と、サー・トーマスは淡々とした口調で尋ねました。 「ラペーニャ将軍の命令です。われわれは徴発部隊を護衛します。以上です」 「きみはむしろ戦いたいと?」 「そのためにここにいるのではないですか?」 サラーサは荒っぽく問い返しました。 サー・トーマスはサラーサが気に入りました。彼はまだ若く、30にもなっていないようでしたが闘争心を持ち合わせていて、そのことが、スペイン兵もチャンスとよい指揮官を与えられれば悪魔のように勇敢に戦うと信じているサー・トーマスを力づけました。 3年前にはバイレンでスペイン軍はフランスの全軍団と戦って勝利を得、イーグルを奪いさえしたのでした。 サラーサ大尉がある種の代表的人物だとすれば、スペイン兵も戦いたがっているのです。しかし、サー・トーマスはラペーニャに同意している自分に気づいたのでした。 「大尉、丘の向こうには何がある?」 と、彼は尋ねました。 サラーサは、二人のフランス歩哨がいるいちばん近い丘の上を見つめました。 サラーサの剣士たちも加え、サー・トーマスの手中には今60騎以上がありました。 「丘の向こうには何もないだろう」 と、サー・トーマスは言いました。 「もしやつらを追えば、さらに遠くに姿を現し、それを追っていけば5マイルも北上しないうちに徴発部隊はやられてしまうだろう」 サラーサはタバコを引き寄せました。 「腹が立ちます」 と、激しい口調で彼は言いました。 「うんざりする話だ」 サー・トーマスも言いました。 「だがわれわれが選んだ場所か、戦わねばならん場所かで戦わなければならない。戦いたいと思った場所ではならんのだ」 サラーサは、いいことを学んだ、といった表情でかすかに笑いました。彼はタバコの灰を落としました。 「私の部隊の残りの兵士は、コニールへの道の調査に派遣するように命令されています」 彼は無表情に言いました。 「コニール?」 とサー・トーマスは尋ね、サラーサはうなずきました。 サラーサはまだ遠くの竜騎兵を見ていましたが、サー・トーマスがサドルバッグから地図を引っ張り出していることははっきりとわかりました。 できの悪い地図でしたが、ジブラルタルとカディスと、その間のメディナ・シドニアと南の町ベヘールにはしるしがつけてありました。 サー・トーマスはベヘールから西に指を動かし、大西洋にぶつかりました。 「コニール?」 と、彼は地図をたたきながら、もう一度尋ねました。 「コニール・デ・ラ・フロンテラ」 と、サラーサは地図の上を示しながら、正式な名前を言いました。 「海沿いの町コニールです」 彼は怒った声で付け加えました。 海沿い。 サー・トーマスは地図を見つめました。 コニールはまさに海岸にありました。バルロッサという村の北10マイルのところにあり、フランス包囲ラインの前線基地になっているチクラーナへの道が東に伸びていました。しかし、サー・トーマスにはラペーニャ将軍はその道を使うつもりがないことはわかっていました。 バルロッサのすぐ北にはリオ・サンクティ・ペトリ川があり、そこはスペイン軍が船橋を架けているところでした。その橋を渡って軍はイスラ・デ・レオンに帰り、さらに2時間も進軍すればラペーニャはカディスに戻れ、フランス軍から安全な場所にはいれるのでした。 「そうはさせん」 サー・トーマスは怒気を含んだ声で言い、馬に拍車をかけました。 ベヘールからはただひとつ、北への道をとるべきでした。 騎馬哨兵によるフランスの警戒線を突破し、ひたすら進む。 ヴィクトールはチクラーナを防御しなければならない。 フランス元帥に、戦うべき場所を自分で選ばせてはならない。 しかしその代わりにスペイン軍将軍は海辺の散歩を考えているのか? カディスに逃げ込むことを? サー・トーマスにはとてもそんなことは信じられませんでした。しかしバルロッサからチクラーナへの攻撃を主張することが難しいということはわかっていました。 行軍には貧弱な田舎道で軍を迎え撃つことになり、ラペーニャはそのようなリスクを犯さないでしょう。 老婦人はただ家に帰りたいだけで、家に帰るには海岸線を通らなければならず、それはフランス軍が連合軍を海に追い込むために必要なすべてだったのです。 「それはならん」 とサー・トーマスは繰り返し、そして離れた野営地に馬を向けました。 しかし不意に彼はサラーサに向き直りました。 「その命令に、きみは従いたくはないのだな?」 「従わねばなりません、サー・トーマス」 「しかしもちろん、この連中が君を襲えば、きみの義務は敵を撃つことだ。違うか?」 「そうでしょうか、サー・トーマス」 「もちろんそうだ!そしてきみは義務を果たすと確信しているぞ、大尉。しかし追ってはならん。徴発部隊を置き去りにしてはならん。あの稜線よりも遠くには行くな。わかったかね?」 サー・トーマスは馬腹を蹴り、そして今フランス歩哨が手を動かしでもすれば、サラーサは攻撃をかけるだろうと思いました。 そうすれば、老婦人が敵を生かしておこうと思ったにせよ、何人かの敵兵は少なくとも死ぬことになるだろう。 「あの男は」 と、サー・トーマスはひとり、うめくように言いました。 「全く、あの男は」 そして作戦を続行させるために、馬を駆けさせるのでした。
by richard_sharpe
| 2008-10-10 19:16
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