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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 2 ラペーニャはサー・トーマスをうっとうしげな目で見ました。 彼はため息をつきました。このスコットランド人の到着を予期し、それが迷惑であるかのようでした。 彼は陸の上に白く光るベヘールを示す身振りをしました。 「イヌンダシオン」 ラペーニャはゆっくりとはっきり言い、そして手をぐるっと回してすべての希望が消えたということを描き出しました。なすすべはありませんでした。運命的な失敗でした。すべてが終わったのでした。 「サー・トーマス、道が冠水しています」 と、連絡将校が不必要な通訳をしました。 「将軍はそれを残念に思っています。しかし事実です」 スペイン人将軍はそれほど残念そうではありませんでしたが、連絡将校はそのように表現することが重要だと考えたのでした。 「悲しむべきことです。サー・トーマス」 ラペーニャ将軍は沈うつな表情でサー・トーマスを見つめ、何かそれがこのスコットランド人の失態だとでもいうかのようでした。 「イヌンダシオン」 と彼は再び言い、肩をすくめました。 「道は実際、冠水している」 と、サー・トーマスはスペイン語で言いました。 浸水は湖と湿原が接するところまで広がり、堤防に作られた道の4分の1マイルが大雨で水位が上がったその中に水没していました。 「洪水だ」 と、サー・トーマスは根気よく続けました。 「だが、あえて言わせてもらうが、セニョール、どこかで通過可能であるはずだ」 彼はラペーニャの答えを待たずに、堤防の上の土手道に向けて馬に拍車をかけました。馬はしぶきを上げて深くなっていく水の中を歩んでいきました。いつもより神経質になり、頭を振り上げて白目をむいていました。しかしサー・トーマスはしっかりと手綱を取って土手道のふちに突き刺してある白い柳の細枝に沿って馬を進めました。 彼は半分ほど進んだところで馬首をめぐらしました。そのあたりでは水は鐙の上に達していました。彼は東の堤に向かい、風の強いスコットランドの狩場で鍛えたよく通る声で叫びました。 「進むべきだ!聞こえるか?進もう!」 「大砲は無理だ」 と、ラペーニャは言いました。 「それに迂回もできない」 彼は悲しげに洪水の果てに広がる湿地のある北を示しました。 サー・トーマスが早足で引き返すとこの言葉は繰り返され、彼はうなずきましたが先に艀を燃やした技術将校のヴェッチ大尉を呼びました。大尉はこのような場合に備えて先兵隊に編入されていたのでした。 「大尉、偵察だ」 と、サー・トーマスは命令しました。 「大砲が通れる場所があったら報告してくれ」 ヴェッチ大尉は馬を浸水の中に乗り入れ、そして確実に通過可能だという、きわめて満足の行く報告を持って戻りました。しかしラペーニャ将軍は土手道が水による被害を受けているかもしれないと主張し、適切な調査が必要で、大砲が湖を横切って完全に通行できるように修復される必要があると言いました。 「では少なくとも歩兵だけでも渡らせる」 と、サー・トーマスは提案し、しばらくの地に歩兵なら危険を侵せるだろうということで同意を得ました。 「きみたちのところの連中をやってくれ」 と、サー・トーマスはディルクス准将とウィートリー大佐に言いました。 「きみらの両方の旅団を堤防近くに配置させたい。道に釘付けにさせるな」 小さく見えるまで遠くに続く旅団は現在危険な状況にはありませんでしたが、サー・:トーマスは英軍・ポルトガル軍の両者が見ていればスペイン軍もすばやく動くのではないかと期待したのでした。 2つの旅団は街道の上に大砲を残して湖の土手の上に集結しました。しかしサー・トーマスの兵士たちが到着しても、スペイン軍は何の動きも見せませんでした。 その兵士たちは、冠水した道に踏み込む前にブーツと靴下を脱ぐことを主張していました。 ラペーニャ将軍の将校たちのほとんどはフェルッカ船で運ばれてきたために、馬に乗っていませんでした。 彼らは苦しげにゆっくりと進み、水の中の道がいきなり崩れ落ちることを心配しているようでした。 「まったく、神様」 と、サー・トーマスはほとんど動かず、細枝のたった道を用心深く馬で進もうとしている少数の将校たちを見ながら不平をこぼしました。 「ジョン」 と、彼は甥を振り返りました。 「ダンカン少佐に敬意を表してくれ。彼に今から大砲をここまで運ぶことと、この忌々しい水溜りを午後のうちに渡ることを望んでいると、彼に伝えてくれ」 ホープ少佐は大砲を引っ張ってくるために馬上の人になりました。 ウィリアム・ラッセル卿は馬から下り、サドルバッグから望遠鏡を取り出して馬の背に固定し、北の方角を探りました。 水平線に縁取られた低い土地で、ところどころに集落のある裸の丘が冬の日差しを反射していました。 荒野には変わった常緑樹が散らばり、子供の落書きの世界のようでした。 黒い幹が伸び、上のほうで色の濃い葉が広がっていました。 「あの木は好きだな」 と、彼は望遠鏡をのぞいたまま言いました。 「スキアドピテュス・ウェルティキルラータ(高野槙の一種)だよ」 ふとサー・トーマスが言い、ウィリアム卿は驚きと畏敬の目で彼を見つめました。 「私のメアリーが旅行中にあの木を好きになってね」 と、サー・トーマスは説明しました。 「私たちはあの木をバルゴワンに移植しようと計画したんだ。だめだった。パースシャーではうまく成長するだろうと思った。そう思わないか?でも最初の冬が越せなかったんだ」 彼はリラックスしているような声でしたが、ウィリアム卿は将軍の指が神経質に鞍のふちをたたいていることに気づきました。 ウィリアム卿は望遠鏡に目を戻し、オリーブのが緩いカーブを描いて半分それに隠れている小さな村にレンズを向けました。そして望遠鏡を止め、彼は凝視しました。 「監視されています。サー・トーマス」 と、彼は言いました。 「ああ、そう考えるべきだったな。ビクトール元帥も馬鹿じゃない。竜騎兵じゃないか?」 「1小隊です」 ウィリアム卿は長い筒をひねり、レンズの照準を合わせました。 「そう多くはないですね。20騎くらいでしょうか」 家々の壁に沿ってダーク・グリーンのユニフォームの騎兵がいるのが見えました。 「竜騎兵です。そうです。二つの低い丘の間の村にいます。ここから3マイルほどでしょうか」 屋根の上に反射光が見え、ウィリアム卿は向こうも望遠鏡でこちらを見ているのだ、と推測しました。 「偵察しているだけのように見えます」 「偵察して、報告に戻るだろう」 サー・トーマスは暗い面持ちになりました。 「われわれに手出しせよという命令を受けていないだけだ。ウィリー、ただひたすら見張っているのだ。私の狩場のコテージをきみの父上の侯爵領に譲ることを賭けてもいいが、ヴィクトール元帥はすでに進軍を開始している」 ウィリアム卿はほかの丘も探してみましたが、敵はいないようでした。 「老婦人に報告しますか?」 と、彼は尋ねました。 サー・トーマスは今回に限っては、そのあだ名をとがめませんでした。 「そっとしておいてやれ」 と、彼は将軍をちらりと見て、穏やかに言いました。 「竜騎兵が接近していると知れば、彼はまっすぐに駆け出したくなるだろう。そんなことを繰り返させないでくれ、ウィリー」 「仰せの通りに」 ウィリアム卿は言い、望遠鏡をサドルバッグにしまいました。 「しかし、仮にヴィクトール元帥が進軍しているとすれば・・・」 と彼は付け加え、その意味について考えてみましたが質問は保留にしておきました。 「彼はわれわれの進路をふさぐぞ!」 とサー・トーマスはうれしげに聞こえるほどの声で言いました。 「戦わねばならんということだ。われわれには戦闘が必要なのだ。ただ逃げ出したりすれば、カディスのこうるさい政治家どもはフランス軍に勝てないといって和睦を訴えてわれわれをカディスから締め出し、フランス軍を呼び込むだろう。われわれは戦わねばならんのだ、ウィリー。そしてスペイン人たちに勝てるということを見せてやらねばならん。見ろ、この歩兵部隊を」 彼は自分のレッドコートやグリーンジャケットたちが待っているのを指差しました。 「世界一の兵隊たちだよ、ウィリー。世界一だ!さあ、戦争を始めようじゃないか。やりにきたことをやり遂げるんだ!」 土手道で待っていたスペイン歩兵部隊は、英軍2旅団と大砲が通り過ぎようとしたので大急ぎで脇にどかなければなりませんでした。 大砲はガラガラと鳴る鎖と蹄の音の中をやってきました。 ラペーニャ将軍は自分の兵士たちが列を乱すのを見て腹を立て、サー・トーマスに馬を向けると10問の大砲のためになぜ行進の順序を乱したのか問い詰めるためにやってきました。 「彼らを向こう側に遠ざけておいてください」 と、サー・トーマスはこらえて言いました。 「勇敢なるスペイン兵が渡る間に、フランス軍がやってくる可能性がある」 彼は土手道の上の先頭にある大砲を示しました。 「突進するぞ」 と、彼は砲兵将校に言いました。 「連中に急がせるんだ!」 「了解です」 と、その中尉はにやりと笑いました。 ライフルマンの1小隊が大砲を警備していました。彼らはカートリッジボックスをはずして馬をなだめながら土手道のふちを歩きました。 最初の大隊はシェンリー大尉配下でしたが、素敵な時間をすごすことになりました。 水は大砲のぎりぎりまで達し、それぞれ8頭の馬に引かせた4門の9ポンド砲と5.5インチ榴弾砲は火薬のかすを吐き出し、火薬をだめにしないために方針をすっかり殻にしなければ鳴りませんでした。砲身を濡らさないためにたてにし、荷車の上に予備弾薬とともに並べられました。 「次の大隊、進め!」 サー・トーマスが命じました。 シェンリーの大隊が鎖をジャラジャラ鳴らし、車輪が水しぶきを上げながら、スペイン兵を対岸に蹴散らしていくのを見て、彼は気分をよくしていました。 突然、緊張が走りました。 続いた大隊の大砲が、土手道から滑ったのです。 何が起きたのか、サー・トーマスにはわかりませんでした。やがて、馬のうちの1等がつまづずいたことがわかりました。そのグループは取り残され、彼らは後ろに回ることになりました。水の中で馬は突然立ち止まり、大砲はゆれ、砲兵を砲身から振り落としました。 ラペーニャ将軍はゆっくりと振り向き、サー・トーマスに非難のまなざしを向けました。 砲兵たちは馬を鞭打ち、馬は前進しようとしましたが大砲は動きませんでした。 そして平原を横切り、湿地帯の広がるかなたで、太陽に照らされて金属が光りました。 竜騎兵でした。
by richard_sharpe
| 2008-10-03 11:44
| Sharpe's Fury
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