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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第5章 - 2 グレアム将軍は隣の筏に飛び移りました。そこでは工兵たちが大砲に導火線を新しく取り付け、火薬を筏の中央に集めていました。 「こっちにもっと煙玉があるぞ、シャープ」 と、彼は叫んでよこしました。 「もう十分です。ありがとうございます」 「なんできみはこんなものを・・・」 と、将軍は言いかけましたが、そのときサン・ルイス砦から砲声が響いたので途切れました。守備隊がようやく目覚め、湿地帯で何が起きているかを認識したようでした。砲声が消えていくと、マスケットの銃弾がシャープの頭上をうなりをあげて飛んでいく音が聞こえました。 散弾や榴弾砲が用意されているはずでした。 砲声が途絶えたことがかえって不気味で、そして3発の赤い砲火が炸裂し、煙が立ち込めました。 将軍の頭上を、砲弾が唸りを上げながら放物線を描いて飛び越していきました。そして湿地の向こうからマスケットの銃弾が飛んできました。 「散弾は使わないだろう」 と、シャープはハーパーに言いました。 「筏に自分で火をつけたりしたくないだろうからな」 「まっすぐこっちを狙っているっていうのは、いい気分じゃないですね」 と、ハーパーは言いました。 「キャンプ地を狙っているだけだ」 「で、俺たちはたまたまそこにいるってわけで」 サンノゼ砦の大砲は北に向けて砲撃を開始しました。砲弾は筏のそばに着弾し、砲火は北と南を狙い始めました。光が夜の闇を照らし出し、そこを煙が漂い、流れて消えました。 サー・トーマスは南をじっと見つめていました。砲撃の光の中に、サン・ルイス砦からフランス軍の遊撃隊がこちらに向かってきているかどうかを見極めようとしていました。 「シャープ!」 と、彼は叫びました。 「中将?」 「艀のところに戻ってみてくれないか?海兵隊大尉のコリンズがいるはずだ。20分以内に撤収する予定だということを伝えてくれ。合言葉は覚えているな?」 「バルゴワンとパースシャーです」 「よしよし。行ってくれ。そうだ、きみへのご好意とやらを忘れてはいないからな。朝食のときに話そう」 シャープはハーパーをつれて溝に沿って進みました。 海兵隊員と合言葉を交わすと、コリンズ大尉は突撃のときに捕虜にした兵士たちのところで自ら見張りに立っていました。 「どう思う?こいつら全員を連れて帰る余裕は艀にはないぞ」 「おいていけばいい」 と、シャープは答えました。彼は中将のメッセージを伝え、コリンズの傍らに立って大砲が火を噴くのを見ていました。砲弾が一発、焚き火の燃え残りに命中し、炎が吹き上がって3,40フィートの高さに上りました。火の粉がテントに降りかかり、あちこちで小さな炎が上がって筏を照らしました。 「夜戦は嫌いだ」 と、コリンズは白状しました。 「厄介だからな」 と、シャープは言いました。すべての影が動いているように見え、湿地帯は影でいっぱいでした。シャープはタラベラでの戦いの前夜のことを思い出しいました。フランス軍が夜襲をかけてくるのを見つけたときのことを。 砦からの砲撃はまだ続いていました。そして榴弾砲までが、シャープのすぐ左で炸裂しました。 「二人ここにやってきたぞ」 と、コリンズが言いました。 「二人とも馬に乗っていた。われわれに馬はいないことはわかっていたが、こっちは捕虜で手一杯だったし、連中はやけに落ち着いていた。こんばんはとか何とか言っていたようで、こっちからも撃たなかったんだ。横柄なやつだった」 ではフランス軍は、駐屯地の下手に艀をつけていることを知っているのだ、とシャープは思いました。そして、少数の海兵隊の歩哨だけが守っているのだ、ということも。 「気を悪くしないで聞いてもらいたいのだが」 と、シャープは言いました。 「艀を上流に移動させたほうがいい」 「なぜだ?」 「あんたたちとアイルランド兵たちの間に、距離がありすぎる」 「私の任務はボートを守ることだ」 と、コリンズは硬い調子で言いました。 「彼らに命令することではない」 「誰が命令するんだ?」 海尉が一人、艀の指揮に当たっていたのですが、今彼は工兵たちのところにいて、コリンズは直接の指揮をとることをせず、自分自身の指揮権のある二つの艀を動かすつもりもありませんでした。 「命令を待つべきだ」 と、彼はかたくなでした。 「じゃあ、俺たちで歩哨に立とう」 と、シャープは南側を示して言いました。 「あんたの部下たちに、間違えて俺たちを打たないように言っておいてくれ」 コリンズは返事をしませんでした。 将軍の艀に煙玉の背嚢を置いてくるようにハーパーに指示し、シャープは彼をつれて南に向かいました。 「フランス軍は来ますかね?」 「黙って座って筏が燃やされるのを眺めているわけにはいかんだろう?」 「やつら、寝ぼけてるんじゃないですか?」 二人は葦の間にうずくまりました。海の方向から微風が吹いてきて、潮の香りがしていました。 砦からの砲火が夜の闇を劈き、しかしこの距離からでは占拠した駐屯地にダメージが与えられているかどうかまではわかりませんでした。 「もし俺がカエルなら」 と、シャープは言いました。 「筏の心配はしない。こっちに来て艀を奪う。そうすればこっちは身動きが取れないからな。違うか?いっぺんに数百の兵隊と中将を捕虜にできるわけだ。寝ぼけたやつらの一晩の仕事にしちゃ、結構なものじゃないか?」 二人は黙り込みました。水鳥が砲声で目覚め、騒ぎ出しました。 「で、街で俺たちは何をするんですか?」 と、ハーパーがしばらくの沈黙の後に尋ねました。 「どこかのバカが手紙を持っていて、それを買い戻さなくちゃならない。少なくとも買い戻そうとする間に汚いことをしようとするやつらを阻止しなくちゃならない。もしうまくいかなかったら、たぶんそうなると思うが、その厄介なブツを盗み出すことになる」 「手紙?金じゃなくて?」 「金じゃないんだよ、パット」 「で、まずいことになりそうなんですか?」 「もちろんまずいことになる。恐喝なんだ。そういうやつらが一度で話をつけるか?吊り上げるに決まっている。たぶん決裂する前にやつらを殺すことになるだろうな」 「誰の手紙なんですか?」 「ある娼婦が書いたものだ」 シャープはハーパーがすぐに真相に気づくだろうとは思っていましたが、彼はヘンリー・ウェルズレイが好きだったので、その恥を広めるつもりはありませんでした。 「うまくいくと思うが、スペイン人が邪魔だてして俺たちを逮捕するか、撃ってくるかもしれん。うまくやらなきゃな」 「大丈夫ですよ」 と、ハーパーが言いました。 シャープは微笑しました。 風が葦の間を吹き抜け、潮の流れは静かでした。 相変わらず砲声は響いていましたが、湿地帯に着弾しているようでした。 「第8連隊がいればいいのにな」 と、シャープはつぶやきました。 「チェシャーの連隊ですか?レザー・ハット?」 「ちがう。フランス第8連隊だよ、パット。川で会ったやつらだ。ブレン中尉を捕虜にしていった連中だ。やつらはこっちに戻っているんじゃないか?バダホにたどり着けるはずがない。橋がないんだからな。やつらに出会いたいもんだ。ヴァンダル大佐とやらにな。あのクソ野郎の頭蓋骨を撃ち抜いてやる」 「そのうち会えますよ」 「たぶんな。ここじゃないだろうが。俺たちは来週には出発だ。でもいつか、パット、やつを見つけ出してブレン中尉にしたことの報いを受けさせる。殺す」 ハーパーは答えず、代わりにシャープの触れました。同時にシャープも葦の擦れる音を聞きました。足音のようでした。近くでした。 「何か見えたか?」 と、彼はささやきました。 「いえ。いや、見えました」 そしてシャープにも見えました。頭を下げて走っていく人影でした。何か金属が、たぶんマスケットの銃身がかすかに光っていました。それは闇に溶け込んでいきましたが、さらに何人かの兵士たちの動きがシャープには見えました。 何人だ?20人?いや、その倍だ。 彼はハーパーにすぐそばにかがみこみました。 「7連発銃だ」 と、シャープは軍曹の耳にささやきました。 「そして右に30歩ほど走ったら、伏せる」 ハーパーはゆっくりと7連発銃を持ち上げました。そして右肩に銃床を当て、撃鉄を起こしました。そのかすかな音にフランス兵たちが立ち止まり、青白い顔をこちらに向けましたが、次の瞬間ハーパーは引き金を引き、すさまじい銃声と閃光が辺りに満ちました。シャープは煙の中を走り、30歩数えて伏せました。うめき声が聞こえていました。銃声が2発しましたが、指揮官の声が聞こえ、静かになりました。 ハーパーが隣に伏せました。 「次はライフルだ」 と、シャープは言いました。 「それからボートに走る」 フランス兵たちがささやき交わす声が聞こえていましたが、やがてそれも途絶え、代わりに砦からの砲撃の光で彼らのシルエットが照らし出されました。 シャープはひざをつき、ライフルを構えました。 「いいか?」 「はい」 「撃て」 2丁のライフルは前方の闇に銃弾を撃ち込み、シャープにはそれがあたったかどうかはわかりませんでした。 ともあれ彼にわかっていたのは、フランス軍が艀を奪おうとしていることであり、銃声はそのことの警告になると考えたのでした。 海兵隊大尉がボートを上流に動かす指揮を執ってくれるように願いました。 「行くぞ!」 と彼は言って走り出しました。 「ボートを動かせ!」 と、シャープは海兵隊の歩哨に向かって怒鳴りました。 「ボートを動かすんだ!」 彼の頭はがんがんと痛みましたが、かまっていられませんでした。 フランス兵たちも発砲を始めました。ハーパーの足元の泥の中に銃弾が一発食い込みました。 海兵隊の兵士たちも、闇雲な射撃を始めました。 その唐突な射撃音は水兵たちへの警告になり、彼らは艀を岸から離しました。しかし重い艀は、いらいらするほどゆっくりとしか動きませんでした。 シャープからいちばん遠くにある艀はなんとか動いていましたが、いちばん近い艀はまだ半ば岸の上にありました。 フランス軍のマスケットの煙にむせながら、その中にシャープは銃剣が反射するのを見ました。 数で圧倒された海兵隊員たちはフランス兵が迫る中、手近な艀に殺到していました。 一人のフランス兵を倒している間に二人がオールを手にした水兵を銃剣で襲う、というような有様でした。 監視されていたフランス軍の捕虜たちも今は自由の身になり、武器は持っていませんでしたが艀に襲い掛かっていました。 ピストルの音が響きました。水兵たちは大型のピストルを支給されており、また反身の短刀も携行していましたが、まさか使う羽目になるとは思っていなかったはずでした。 しかしいまや水兵たちまでもが、襲い掛かる兵士たちに立ち向かわなければならなくなっているのでした。
by richard_sharpe
| 2008-02-01 10:01
| Sharpe's Fury
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