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三冬のシャープ・サイト
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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部カディス 第4章 - 2 正午近くなり、シャープは長い時間をかけて目当ての商売人を探し、汚いマントと帽子を丸めて小脇に挟むと、店に入って南京錠を買いました。それはイギリス製で、スチールのケースに入ったピッキング防止のタイプでした。 店主は彼をイギリス人と見て法外な額を要求してきましたが、シャープは言われるままに買いました。金は彼のものではなく、イギリス大使館の金庫からパンフリー伯が持ち出して彼に与えたものだったからです。 シャープは奇跡の十字架のところまで戻り、石段の日陰で出て行った男たちの帰りを待ちました。 イヌが一匹、彼のコートの匂いを嗅ぎにきて、石壁に向かって小便をしました。 女たちは教会に出入りする時に、シャープの器に小銭を投げ入れました。 階段の反対側に女乞食がうずくまり、シャープに何かと話しかけましたが、シャープはマリア様のご加護を、と繰り返すばかりだったので、女は話しかけるのを止め、シャープは例の家を見つめ、その中から手紙を盗み取れるかどうかを考えていました。 守りの堅い建物で、正面の扉と一階の窓はしっかりと閉ざされていました。 托鉢僧が喜捨を請いながらやってきて、その家の扉を何度も叩きました。 小道から顎の角ばった僧が姿を現し、怒鳴りつけて托鉢僧を追い返しました。 その間扉も窓も開きませんでした。 フランス軍の迫撃砲がさらに2度砲撃されましたが、今度はシャープがいる通りには落ちてきませんでした。 シエスタのために人々がいなくなる時間帯までシャープは座り続け、そして彼は先ほど3人の男に引っ張り込まれた廃屋に向かいました。 そして錠前を石で叩き壊し、チェーンをはずすと中に入ってみました。 小さな修道院の中庭でした。一部は壊れて瓦礫になっていて、残りの部分の石組みは焼け焦げていました。ずいぶん前に廃墟になったもののようでした。雑草が礼拝堂の敷石の隙間から伸びていました。 塔への階段を昇ると、200近くある塔で縁取られた街が一望できました。塔は、商人たちが貿易船の入港を見届けるためのものでした。あるいは、カルタゴの海賊たちから街を守るためでした。 ムーア人がカディスを占領してからはイギリス人、特に彼らが「エル・ドラコ」と呼ぶサー・フランシス・ドレイクが敵になり、ドレイクはカディスの街の大部分を焼き払い、その後塔は建て直され、今後敵を一切見逃さないように、塔が連なっているのでした。 この塔は6階の高さで、屋根は平でした。シャープは誰にも見咎められないよう、ゆっくりと胸壁に近づきました。 彼の目は確かでした。ここはヌニェズの家を見張るのには完璧な場所でした。50歩ほどしか離れておらず、放置された建物が連なり、屋根はすべて平らでした。煙突が黒い影を投げかけており、そのうちの一つはヌニェズの家の見張り塔で、マスケットを持った男が一人膝をついて座っていました。 シャープは1時間ほど見張っていましたが、その男は動くことなく、ただフランス軍の遠い砲撃の音が響いていました。 彼は通りに戻り、門を閉めてチェーンを巻きつけ、新しい南京錠を施錠しました。そして鍵をポケットに滑り込ませるとヌニェズの家から離れ、南西に向かって歩き始めました。右手に海を見ながら進めば、パンフリー伯と待ち合わせをしている大聖堂にたどり着くことはわかっていました。 歩きながら、シャープはジャック・ブレンのことを考えていました。かわいそうなジャック。捕虜になってしまって。 そして彼はヴァンダールのマスケットが火を噴いた瞬間のことを思い出しました。 いつか復讐してやる。 頭が痛みました。 奇妙なことに、傷を受けたのは左の側頭部なのに、ときどき右目の視界が真っ暗になりました。 大聖堂には早く着き、シャープは岸壁に腰を下ろして大西洋の大波が打ち寄せてくるのを見ていました。 5時の鐘が鳴ると、シャープは家並みの上に大きくそそり立つ大聖堂に入りました。 大屋根はまだ建築途中で、今は醜く見えました。 入り口は家々の並んだ細い街路に面しており、そこでパンフリー伯が待っていました。パンフリーは近づいてくる乞食を、象牙の杖で追い払おうとしたのでした。 「どうしたというのだ、リチャード」 というのが、閣下のシャープへの挨拶でした。 「どこでそんなコートを手に入れた?」 「乞食からですよ」 パンフリー伯はきちんとしたいでたちでした。ラベンダーの香りを漂わせ、黒いロングコートを着ていました。 「収穫のある一日だったかな?」 パンフリーは乞食たちが近づいてこようとするのを杖で払いました。 「そう思います。手紙が新聞社にあるかどうかによりますが」 「まだ連絡が来ないのだ」 と、パンフリーは言いました。彼は聖水に指先をつけ、額に十字を描きました。 「彼らの伝言は手紙をわれわれに売りたいと暗に言っているのだが、金次第なのだ。ひどいとは思わないか?」 と言った最後の言葉は、大聖堂の内装に向けたものでした。 シャープはひどいとは思いませんでした。圧倒的で、巨大でした。 彼は祭室が並ぶ身廊を見ていました。それは長い廊下になって、礼拝堂につながっていました。鮮やかに塗られた聖像がろうそくの明かりに照らされて、ずらっと並んでいました。 「90何年か、建設が続いているそうだ」 と、パンフリー伯が言いました。 「戦争のためやむを得ず中断している。帽子を取りたまえ」 シャープは帽子を脱ぎ捨てました。 「サー・トーマスに手紙を書いてくださいましたか?」 「書いた」 パンフリー伯は、シャープのライフル隊員たちをリスボンに北上する船に乗せず、イスラ・デ・レオンに残してくれるように頼む手紙を書いてくれると約束したのでした。 「今夜連中を連れてきます」 と、シャープは言いました。 「厩に寝泊りして、大使館の召使のフリをしてもらわねばならない。クロッシングに行こう」 「クロッシング?」 「袖廊と身廊が交わる場所だ。その真下に納骨室がある」 「プラマーが死んだ場所ですね?」 「プラマーが死んだ場所だ。見たいと思わないか?」 大聖堂の突き当たりは未完成で、ただの石壁があるだけでした。クロッシングはその壁の前に当たり、四方の角に祭室を持った、高く開けた場所でした。シャープの頭上には、未完のドームがありました。 人夫が二人、高い足場にはいつくばっていました。 「建築を止めたとおっしゃっていましたが」 「修理をしているのだろう」 と、パンフリー伯は気にも留めずに言いました。彼は側廊から建築中の大きな礼拝室の一つにシャープを伴いました。石段が階下に消えていました。 「プラマー大尉はそこで生涯を終えた」 と、パンフリー伯は指し示しました。 「悔やみを言いたいところだが、彼は実にいやな男だったのだ。下りてみたいかね?」 「もちろん」 「彼らがまたその場所を選ぶかどうか、疑問だが」 と、閣下は言いました。 「彼らが何を望んでいるかによります」 と、シャープは言いました。 「どういう意味だ?」 「連中がわれわれを殺したいのなら、この場所を選ぶでしょう。一度うまくいったから、使わない手はないでしょう」 彼は先に立って階段を下り、異様な部屋に降り立ちました。 低いドーム状の天井の、丸い部屋でした。 祭壇が部屋の端にあり、3人の女が十字架の前にひざまずいていました。パンフリーは爪先立ちで部屋の中央に進みました。 パンフリー唇に指をあてると、杖の先で鋭く床を突きました。その音は何度も何度もこだましました。 「驚くじゃないか?」 と、パンフリー伯は言いました。 驚くじゃないか。と、こだまが返り、それが繰り返されて重なり合いました。 女たちの一人が振り返って這っていこうとしましたが、パンフリー伯は微笑んで彼女にお辞儀をしました。 「一人で輪唱が出来る。やってみるか?」 シャープはそれよりもその大きな部屋につながっている通路に興味がありました。全部で5つあり、真ん中のものはロウソクの光に照らされた他の礼拝堂に続いていました。他の4つは暗い穴倉のようでした。 シャープはいちばん近いものを探った結果、他の廊下に続いていることを発見しました。その廊下は主室をぐるっと囲んでおり、穴倉から穴倉へと行くことができました。 「頭のいいやつらじゃないですか」 シャープは彼についてきたパンフリー伯に向かって言いました。 「頭がいい?」 「プラマーは真ん中の大きな部屋で死んだんでしたね?」 「血があったのだから確かだ。よく見るとまだ残っていると思う」 「殺したやつらはこの脇にある部屋にいたはずです。廊下が取り囲んでいるので、どの部屋にいるのかはっきりとはわからない。この部屋を交渉場所に選んだ意味は一つです。屠殺場所だ。あなたが交渉するんでしたね?それなら人目に触れる場所で、昼間に会うように言ってください」 「彼らに任せるしかないのだ」 「それにしても、いくらで売るといってきているのですか?」 と、シャープは尋ねました。 「少なくとも1000ギニーだ。少なくとも、だ。たぶんもっと高くなる」 「なんてこった!」 と、シャープは思わず笑い出してしまいました。 「女を選ぶ時は注意してほしいですね。大使にはいい勉強になったでしょう」 「ヘンリーはプラマーが使いに出たときに、自分の金を300ギニー出している」 と、パンフリーは言いました。 「妻を寝取られた男は、財産まで取られてしまった。しかし今回は政府の金だ」 「なぜです?」 「われわれの敵が手紙を新聞で公開した以上、政治的問題になったのだ。ヘンリーが不運にもそぐわない女と寝たという問題ではなく、英国政府とスペインとの間の問題になった。それで国庫を開いたのだ。それが彼らの当初からの狙いだったと思う」 シャープは中央の部屋に戻りました。彼は周りを敵に囲まれている場面をイメージし、その敵は皆、廊下に隠れており、次々と違う廊下から敵が現れてくる、という場面を想像していました。 プラマーと部下たちは猟犬に追い詰められたネズミのようだっただろう。 「連中が手紙を売るとして、写しを取ったり出版したりしないようにとめることができると?」 「しないと保証した」 「保証がなんですか」 と、シャープは言いました。 「あなたは他の国の外交官と交渉しているんじゃない。脅迫者が相手なんだ!」 「わかっているよ、リチャード。わかっているとも。満足できる状況ではないが、信用するしかない。ベストを尽くし、彼らの名誉に訴えるしかないんだ」 「ベストを望めると?」 「問題か?」 「閣下、戦いの中では、常に最悪を予想します。態勢を整えておける。女はどこにいますか?」 「女?」 「カテリーナ・ベラスケスでしたっけ?彼女はどこに?」 「わからない」 と、パンフリーはしばらく後に答えました。 「彼女も関わっているのですか?彼女も金を欲しがっている?」 と、シャープは強い口調で尋ねました。 「手紙は彼女から盗まれたのだぞ!」 「と、彼女は言っている」 「きみはずいぶん疑り深いのだな、リチャード」 シャープは答えませんでした。彼はパンフリーにクリスチャン・ネームで呼ばれるのが嫌いでした。親しさ以外のものを感じさせられました。シャープは彼の支配下にあり、ペットであると告げていました。庇護を歌っていましたが、それはうそでした。 パンフリーは自分を弱弱しく、明るく、軽薄に見せるのを好んでいましたが、シャープはそこに計算されつくした頭脳と、剃刀のように働く心があるのを知っていました。 パンフリー伯は闇社会に親しんだ人物で、誰よりも相手の動機に心当たりがあるはずでした。 「パンプス」 と、シャープは言い、相手の眉が上がり、目に光が閃くのを受け止めました。 「あんたは連中がこっちを弄ぼうとしていることがよくわかっているはずだ」 「だからこそ、きみに頼むのだよ、シャープ大尉」 マシになった。 「手紙が新聞社にあるかどうかわかっていないのですね?」 「わかっていない」 「しかし、もし連中がこっちを翻弄しようとしているのなら、まあそのつもりでしょうが、そっちに取り掛からなければなりません。それが目的ですね、閣下。手紙を奪い返すか、出版を止めさせるか」 「国王陛下の政府はその両方を望んでいる」 「それで、国王陛下の政府は私に支払いをしてくれるんでしょうね?日給10シリング6ペンス、食費諸経費を差し引いて4シリング6ペンス」 「確実に大使はきみに報酬を与えるだろう」 と、パンフリー伯はしぶしぶ答えました。 シャープは無言で部屋の中央に立ち、その床の敷石がまだ血で汚れているのを見ました。彼はつま先で床をつつき、反響に聞き入りました。 パンフリー伯の言うとおり、敵は手紙と金を交換したいだけかもしれない。しかしシャープは、彼らが手紙と金の両方を望んでいると推測していました。 彼は階段を昇ってクロッシングに戻りました。パンフリー伯が後に続きました。 そこには石壁に囲まれた扉があり、シャープはそれを押して見ました。扉は簡単に開きました。外気が流れ込んできました。 「もういいかな?」 と、パンフリー伯が尋ねました。 「連中が祭室で会おうといわないことを祈るだけです」 と、シャープは言いました。 「きみはそうだと思うのか?」 「祈るだけですよ」 シャープは言いました。彼はあれほどまでに襲撃と殺害に適した場所を、これまで見たことがありませんでした。 二人はだまって細い通りを歩いていきました。迫撃砲が、街の端で炸裂する音が鈍く響きました。その直後に街中の教会の鐘の音が一度に鳴り響き、歩いていた人々はいっせいに立ち止まって、男たちは帽子を取りました。 「オラシオンだ」 とパンフリーは言って、帽子を取りました。 「なんですか?」 「夕べの祈りの時間だ」 住民たちは鐘が鳴り終わるまで十字を切っていました。 シャープとパンフリーは歩き続けましたが、大きな薪の山を背負った3人の男たちが立ち止まっている中に割り込むことになりました。 「全部輸入品だ」 と、パンフリー伯は言いました。 「本土から持ってくることはできないだろう?バリアリックスかアゾレスから運んでくるのだ。輸送費に莫大な金がかかるが、カディスの冬を越すための暖房には欠かせない。ありがたいことに、大使館では英国の石炭を使える」 薪と石炭。 シャープは男たちが去るのを見ていました。 彼らはシャープにあるアイデアを与えてくれました。 もし敵が手紙を売らなかったときに大使を守る方法。 それは勝利への方法でもありました。 すっかり遅くなりましたが、今日まで松の内ということで、本年もリチャード・シャープとこのブログをよろしくお願いいたします。 火傷の包帯が取れて指が自由になったので、ずいぶん間があいてしまいましたが続きを。 今年こそ短い間隔で更新したいです。
by richard_sharpe
| 2008-01-07 17:46
| Sharpe's Fury
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