カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第2章- 3 居間には憂鬱な絵がかけられ、聖者たちはその中で焼かれ、暖炉の上には等身大の磔刑のキリスト像が架けられていました。 その下には祭壇があり、二つのロウソクの間にはサーベルがかけられていました。 彼らを迎え入れた男は侯爵夫人の召使であると名乗り、彼女はすぐにやってくると言いました。そして客に、何か必要なものはないかと尋ねました。 シャープはスペイン語よりもポルトガル語のほうを多く使い、召使との会話を通訳しました。 「私に朝食と、それから医者だ、シャープ」 と、准将は命じました。 シャープはそれに兵士たちへの食糧と水も付け加えて伝えました。 召使はお辞儀をし、兵士たちを台所に案内すると告げました。そして彼はシャープと、長椅子に横になったムーンを残して部屋から出て行きました。 「居心地の悪い部屋だ。こんな陰気な絵に囲まれて、よく暮らせるな」 と、准将は壁に目をやりながら言いました。 「信心深いんだと思いますが」 「われわれも信心深いが、こんな拷問の絵を飾ったりはしない。まったく!風景や家族の肖像画のほうが罪がない。侯爵夫人はここに滞在中だといっていたか?」 「はい」 「それなら、ここの絵よりも目に嬉しい人であって欲しいね」 「ちょっと兵士たちの様子を見てきます」 と、シャープは言いました。 「そうしたまえ」 ムーンは、シャープには召使部屋のほうが似合っている、と思ったのでした。 「ちょっと待て、シャープ。彼は私が医者を必要としていることを理解したのか?」 「はい」 「食糧も?」 「わかっていると思いますが」 「日暮れ前に何とかしてくれるといいのだが。それからシャープ、例の頭のいい若い男を寄越してくれ。何ヶ国語も話すやつだ。通訳をするように。しかしまず身なりをちゃんとするように伝えてくれ」 ムーンは顎をしゃくってシャープを解放し、シャープは厩の前を横切って、ハムがぶら下がり、いい匂いのする燻製やチーズや焼きたてのパンのある台所に入りました。 かまどの上にはやはり磔刑像が架けられ、炉のそばでは二人の料理人が忙しく働き、3人目の女はテーブルの上で粉をこねていました。 ハーパーはシャープに、チーズやハムや、丸いワインの樽を示して笑いました。 「戦争中だとは思えませんね」 「何か忘れているようだな、軍曹」 「なんですかね?」 「フランス歩兵隊の連隊が半日行軍の位置にいるってことさ」 「いますね」 シャープはワインの樽に歩み寄り、こつこつと叩きました。 「ルールはわかってるな」 と、彼は兵士たちを見ながら話し始めました。 「もし一口でも飲んだら、生まれてきたことを怨むほどの目にあわせるぞ」 兵士たちは真面目な面持ちで彼を見ました。 彼がやるべきことは樽をどこかにやってしまうことだとわかってはいましたが、そうしても兵士たちは必ず同じだけの量の酒をこの家のどこかから見つけ出してくることはわかっていました。英軍兵士を放し飼いにすると、かならず酒場にしけこむ。 「われわれはここを速やかに出発しなくてはならない」 と、彼は続けました。 「だから俺は、お前たちに飲ませたくない。リスボンに戻ったら、1週間は足腰が立たないほどのラム酒漬けにしてやる。だが今日は、わかるな?今日はシラフでいるんだ」 兵士たちはうなずき、シャープはライフルを肩に回しかけました。 「お前が食べている間、塔で見張りをしている」 と、彼はハーパーに言いました。 「だから誰か二人を俺によこしてくれ。あの古い塔が見えるな?」 「見間違えませんよ」 「あそこにいる。それから、ハリス?准将の通訳をやってくれ」 ハリスは肩をすくめました。 「しなくちゃいけませんか?」 「そうだ。当たり前だ。まず服装に気をつけろよ」 「バッグ3つ分の服を持っていましてね」 と、ハリスはぬけぬけと言いました。 「ハリス!」 と、ハーパー軍曹が彼を呼びました。 「何ですか、軍曹?」 「俺たちがならず者かどうか、准将に判らせてやれ」 「そうしますよ、軍曹。約束します」 シャープは厩の前庭の東の端にある塔に登り、40フィートほどの高さの胸壁から、東に伸びる街道と、それにそった細い川を見渡しました。 フランス軍がここに来ようとしているなら、通るはずの道でした。 彼らは来るだろうか?一握りのイギリス兵を追いかけて? この大きな屋敷がフランス兵の残虐から免れているということは、紛れもなく侯爵夫人はアフランセサーダ(フランス軍シンパ)であり、フランス軍に物資を譲っているということでした。そして街も同様に略奪を免れているのは? もしそうなら、ボートはどうだろう。 准将が医者の診察を受けたらすぐに川を渡れるとしたら、そして川を渡ったら? 准将の旅団はジョセフ砦を捨ててテージョ川に撤退し、脚の折れたムーンはそれに追いつくことはできない。 しばらくシャープはこの厄介ごとを考えていましたが、しかし彼の問題ではありませんでした。 ムーン准将は彼の上官の高級将校なのだし、シャープはその命令を待てばいいだけでした。 それよりも、彼は准将のためにだれかに松葉杖を作らせなければなりませんでした。 彼は東側に目を向けました。ブドウ畑が繁り、何人かがそこで仕事をしていました。 東に向かう騎馬の男と、2匹のヤギを引く子供。 ほかに動くものは泣く、雲ひとつない空にタカが円を描いていました。 まだ冬でしたが、陽射しは驚くほどの暖かさでした。 ハーパーがハーグマンとスラッタリーを連れてやってきて、シャープに一息つかせました。 「ハリスは戻ってきましたよ。レディーは英語を話せたらしいです。何かありましたか」 「何も。レディーだって?」 「侯爵夫人です。年取った雌鳥で」 「准将は何か若いべっぴんを期待していたんじゃないかな」 「俺たちみんなそうですよ。それでフランスさんに会ったらどうします?」 「川を下る。もし連中が来たら、この道を使うと思うが、ここなら数マイル先まで見渡せる」 「来ないことを祈りましょう」 「来た時に兵隊たちが酔っ払っていないことを祈ってくれ」 ハーパーはシャープにちょっと戸惑った視線を投げかけましたが、わかったようでした。 「コンノートの連中のことなら、心配要りませんよ。あなたの命令どおりにします」 「そうか?」 「ヌーラン軍曹と話したんですがね、こう言ったんですが、失望させないでさえいれば、大尉は本当に悪くない上司だと、それで大尉は完璧なワルだと言っておきました。それからあなたの親父さんがアイルランド人だとね。そうかもしれないでしょう?違いますか?」 「てことは、俺もお前たちの仲間なわけだ」 と、シャープは面白がっていました。 「ああ、まさか。あなたはそれほどハンサムじゃないですよ」 シャープが台所に戻ると、ゲーガンが粉をこね、ヌーランの部下たちのうちの二人がかまどの脇で薪をくべていました。 「ハムエッグを作りますよ」 と、ヌーラン軍曹はシャープに言いました。 「ちゃんとしたお茶をどう入れるのか、今お見せします」 シャープは焼きたてのパンと硬いチーズの塊で満足しました。 「誰かかみそりを持っているか?」 と、彼はヌーランに尋ねました。 「ライアムが持っていると思います。いつもご婦人たち用に身なりに気を使っていますから」 「じゃあ、兵士たち全員にひげをそらせてくれ。それから、誰も庭に残すなよ。フランス軍が来た時に迷子を捜している暇はない。ハリスはどこだ?庭を見回らせろ。それから手ごろな木切れで准将の松葉杖を作らせてくれ」 ハリスはにやりと笑いました。 「もう松葉杖をお持ちですよ。レディーがご主人のものだったのを持っていたんです」 「侯爵夫人が?」 「魔女みたいな婆さんです。未亡人で、おっそろしくしゃべるんですよ!」 「准将に何か食べ物は?」 「済みました。医者も来るそうです」 「医者は要らないのにな」 と、シャープはぶつぶつ言いました。 「ゲーガンがうまく治したのに」 ゲーガンは笑いました。 「うまくやりましたよ」 「周りをちょっと見てくる」 と、シャープは言いました。 「もしカエルどもが来たら、准将を連れて川を下るんだ」 「来ると思いますか?」 と、ヌーランが尋ねました。 「あの連中のすることはわからん」 シャープは外に出て、テラスを横切り、菜園に入りました。二人の男が仕事をしており、彼を疑わしそうな目で見ていました。その中を、シャープはボート小屋に近づきました。 石の基礎の上の木造の建物で、扉には南京錠がかけられていました。 リンゴほどの大きさの古い南京錠で、シャープはライフルの銃床で殴りつけてはずしました。 ドアは外側に大きく開きました。 そして、そこにはボートがありました。 完璧なボートでした。 6つの漕ぎ手用のベンチがあり、12本の櫂が取り付けられるようになっていました。二本の舗道の間に水路があり、そこに浮かんでいました。 白く塗られていたのが埃で汚れ、ネズミの足跡がついていました。 背後で足音がしました。振り返ると、庭師がボート小屋にやってきていました。彼は鳥撃ち銃でシャープを脅しながら、かすれた声で何か言いました。シャープにそこから去るようにいっているようでした。 シャープは肩をすくめました。銃は古ぼけていましたが、使えないとは限りませんでした。 男はセが高くしっかりした体つきの40代で、銃を握りしめてシャープに立ち去るようにもう一度言い、シャープは従うように見せかけました。 何か早口でいう男の言葉の10分の1もわかりませんでしたが、彼がシャープの腰に銃口を押し付けたことは分かりました。 シャープは銃を左手でもぎ取ると、右手で殴りつけました。そして股間を蹴飛ばし、銃を分解しました。 「銃を英軍将校に向けるな」 と、わかるかどうかわかりませんでしたがシャープは言い、中に残っていた火薬を捨てました。 そして撃鉄を川に投げ捨て、 「生きているだけありがたいと思え」 というと、彼は銃のほかの部品を男の腹に投げつけ、もう一度蹴りつけました。 彼は自分でも分からないほどに腹を立てていたのでした。
by richard_sharpe
| 2007-11-13 18:03
| Sharpe's Fury
|
ファン申請 |
||