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1811年、ブサコ作戦。
第1部 第1章- 4 それはシャープがこれまで知っていたような戦争ではありませんでした。 サウス・エセックスはポルトガル中央を西方に向けて突っ切り、現在は軍の後方にいて、さらにその後ろには騎兵隊2師団と砲兵部隊がいましたが、フランス軍の圧迫はさほどのものでもなく、サウス・エセックスは彼らの補給部隊を叩く余裕もあるほどでした。 トレス・ヴェドラス防衛線が右手を横切っていました。 ある村にはまだ山羊が残り、他の村にはオリーブ・オイルが残されていました。 フランス軍の略奪に会う前に、兵士たちは銃剣で山羊を殺して埋め、油を地面に流しました。 フランス軍が追ってくる気配はありませんでした。 午前中に一度爆音が聞こえましたが、それひゃ前方からで、英軍の工兵隊が橋を爆破した音でした。 サウス・エセックスの兵士たちは川を渡渉しなければならないことに不満げでしたが、橋を残しておくわけにも行かず、彼らは文句をいいながらも川を渡りました。 陸軍中佐ウィリアム・ロウフォード卿はサウス・エセックス連隊の指揮官でしたが、彼は新しい黒馬に乗ってご機嫌でした。 以前のポルティアという牝馬はスリングスビーに与えられていました。スリングスビーはいまや騎乗で軽歩兵隊の指揮官として鼻高々でした。 「きみも馬に乗ろうと思えば乗れるだろう?」 と、ロウフォードはシャープにいいました。本来将校は騎乗であるべきなのです。 「兵隊たちには馬じゃなくて俺を見て欲しいんですがね」 シャープは答えました。 「シャープ、分かっているだろう?私はきみの役に立ちたいんだ。工兵隊の少佐が馬を売りたいといっている。私が口を利いてあげることができるんだが」 シャープは答えませんでした。彼は乗馬を好みませんでした。しかし馬に乗っているスリングスビーへの嫉妬心というのはまた別問題でした。 ロウフォードは答えを待っていましたがそれがないと見て取ると、言葉を続けました。 「この馬をどう思う?ライトニングだ。すばらしい馬だと思わないか?」 「脚が4本ありますね」 「シャープ!ほかに言うことはないのか?軍曹、どう思う?」 ロウフォードはハーパーを振り返りました。 「すばらしいです。アイルランド産じゃないですか?」 「そのとおりだ!きみには見る目があると思っていたよ、軍曹。風のように早く走る。高い買い物の価値はあった」 「そうでしょうね。ところでテレグラフの件について、お伝えいただけましたか?」 と、シャープは話題を変えました。 「伝えたが、本部は忙しいんだ。多少の小麦粉に注意を払う暇はない。まあ、きみがとった措置は正しかった」 「俺が言っているのは、粉のことじゃなくてフェレイラ少佐のことです」 「もっともらしい言い訳があると思うが」 ロウフォードは軽く言い、馬を前に進めて行きました。 シャープはインドにいたときから、ロウフォードが好きでした。彼は頭がよく才能豊かで、欠点があるとしたら、トラブルを避けたがるという点でした。彼は天性の外交家で、常に妥協点を見出そうとしていました。 ロウフォードがフェレイラ少佐の不正を見逃す態度も、シャープにとって驚くに当らないものでした。 寝た子を起こさない、というのがロウフォードの世界観のようでした。 そこでシャープも半分テレサとジョセフィーナのことを考えながら半分で兵士たちの仕事について考えていましたが、それでも傍らを騎馬の男が通り過ぎようとしたことには気づきました。 「またトラブルかね、リチャード」 シャープが白昼夢から醒めると、そこにはホーガン少佐が機嫌よく彼を見下ろしていました。 「機嫌がよくなさそうだな。ベッドの反対側から降りたんじゃないのか?」 「一ヶ月休暇をくれるって言っていたのに、一週間ですからね」 「無駄な一週間じゃなかっただろう?」 ホーガンはアイルランド出身の技術将校でしたが、今ではウェリントンの傍らで情報収集の仕事をしていました。噂や、フランス軍からの脱走兵の証言などを集め、パルティザンたちにメッセージを送り、フランス軍の伝令を捕え、時には手を血で染めることもあるようでした。 彼はシャープの旧知の友でもありました。 「昨夜、ある紳士が連隊本部にやって来た。ウェリントン公がお忙しくて彼の文句に付き合っていられなかったのは、きみにはラッキーだったよ」 と、ホーガンは眉をひそめながら言いました。 「紳士?」 「フェラグスだ」 「あのやろう。彼はなんと?」 「きみが彼を殴ったと」 「じゃあ、やつは本当のことを言っているわけですね」 とシャープは認めました。 「何だって、リチャード!きみは無傷のようだが、本当にあの男を殴ったのか?」 「ばったり倒れていましたよ。理由を言いましたか?」 「はっきりとは。だが見当はつくよ。食糧を敵に流そうとしていたんだろう?」 「2トン近い小麦粉です。ポルトガル将校もいましたよ」 「彼の弟の、フェレイラ少佐だ」 「弟!」 「似ていないだろう?だが、兄弟なのだ。ペドロ・フェレイラは家にとどまって軍に入り、結婚したが、弟は身を沈めたのだよ。フェラグスというのはニックネームで、ポルトガルの伝説の巨人のことだ。彼は使える。その弟は、もっと使える。私が議会に工作しているようなことを、フェレイラはポルトガルで行っているんだ。ただ、彼はフランス軍部に友人がいる。ポルトガル人の理想主義者でフランスに走ったものもいるからな。自由、平等、博愛。ナンセンスだ。フェレイラ少佐は彼らと接触を保つためにとどまっているのだ。使える男だ。しかしフェラグスは、リチャード、とんでもないワルだ。彼がどこで英語を学んだと思う?英国海軍に、水夫としてもぐりこんでいたんだ。最下層の英語だよ。大西洋艦隊から、西インド諸島までの荒くれどもとケンカをし尽くしてきた。それから奴隷船に乗り込み、のし上がったんだ。彼は自分では貿易商だと言っているが、法の目をくぐっているのではないかと私は思うがね」 「奴隷貿易?」 「ま、そんなところだろう。ギニアからブラジルまでが彼の商売範囲だ。どういうわけか、彼はいまや金持ちだ。それで、フェレイラ少佐は彼がポルトガルからスペイン西部までの領域を押さえているから権利があるといっているのだ。そんな感じだったな」 「裏切りじゃないんですか?」 「そんなものだがね。2トンの粉はさほどの量ではないが、重大な問題だ。フェレイラ少佐は兄の側にいるようだったよ。一応私が巨人に謝っておいた。そして2度ときみが彼と顔を合わせることはないといっておいたよ」 と、ホーガンは鋭い視線をシャープに向けました。 「そういうわけで問題は片付いた」 「俺は自分の任務を果たしたんですがね。馬鹿みたいだ」 シャープは言いました。 「ところでやっと兵隊らしい仕事だぞ」 と、ホーガンは嬉しそうに続けました。 「マッセーナ元帥もやってくる」 「てっきり俺は、彼から逃げているんだとばかり思っていましたよ」 ホーガンは笑い出しました。 「3つの経路を選択できたんだが、彼はいちばん面倒なルートを選んだのだ。まっすぐにブサコに向かっている。攻撃するには最悪の場所だ。何かを期待すると、何か予期せぬ悪いことがついて回るもんだ」 ホーガンは片手を挙げました。フォレスト少佐がその脇をうなずきながら騎乗でやってきました。 「隣村にパン焼き窯が二つ残っているんだ。将軍はきみの隊がうまくやってくれるだろうと期待している」 と、フォレストがシャープに向かって告げました。 村人たち全部のためのパンをまかなえるオーブンで、レンガでできた大きいものでした。 軽歩兵隊の兵士たちはツルハシでフランス軍の使用に耐えないようにこわさなければなりませんでした。 そしてそれから、再び行軍が始まりました。 ブサコと呼ばれる街へ。
by richard_sharpe
| 2006-12-23 11:57
| Sharpe's Escape
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