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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第13章 シャープは2つの農園の間に立っているオリーブの木を指差し、ハーグマンに向かって叫びました。 「あの木が見えるか、ダニエル?」 鐘楼から返事が聞こえました。 「400ヤード先の、オリーブの木だ。大きい家の向こう側だ!」 「見えました」 「あのぶら下がっている枝を打ち落とせ!」 ハーグマンは何か奇跡のおまじないを口の中で唱え、エル・カトリコは不可能だというように冷笑しました。シャープは彼に笑いかけました。 「あんたの部下が村から出ようとしたら、必ず撃つ。わかったか」 エル・カトリコは返事をしませんでした。 シャープは4人のライフルマンを鐘楼に配置し、カーサテハーダから出るものがあったら撃つようにという命令を与えていました。 あとは軽歩兵隊が到着するまでの時間を稼がなければなりませんでした。 ライフルの発砲音が聞こえ、エル・カトリコにもオリーブの枝が木の皮一枚を残して垂れ下がるのが見えました。 彼は何も言いませんでした。 ハーパーに率いられた5人のライフル隊員たちに武装解除されたほかのパルティザンたちは、壁際に座らされていました。 ライフル隊員たちは金貨の詰まった皮袋を引っ張ってきて、シャープの足元に置きました。それは次から次へと現れました。 シャープは一度にこれだけの量の金貨を見たことはありませんでした。 エル・カトリコがその表情の下に怒りを押し殺していることは、シャープにもわかっていました。 「我々の黄金だ。シャープ」 「我々の?」 「スペインのだ」 「だから俺たちがカディスに運んでやる。一緒に来るか?」 「カディス!きみたちがカディスに持って行くわけがない!イギリスに運ばれて、将軍たちの贅沢品を買うに決まっている」 シャープもエル・カトリコと同様に嘲りに満ちた表情を作ろうとしました。 「それならあんたはこれをどうするんだ?」 「カディスに運ぶ。陸伝いで」 シャープはそれを信じてはいませんでした。 彼の直感の全てが、エル・カトリコは黄金を奪い、自分の手中にすると告げていましたが、それを証明する手立ては、ただ黄金が隠されていたということしかありませんでした。 シャープは肩をすくめました。 「それでは我々がお供しよう。喜んで」 シャープは笑みを浮かべ、エル・カトリコは部下たちに何か言いました。彼らは怒りをあらわにしましたが、シャープの部下たちがライフルを構えて一歩踏み出しました。 パトリック・ハーパーはシャープの傍らに立ち、背を反らせました。 「連中はあんまり嬉しくなさそうですね」 「俺たちが盗むと思っているからな。カディスに運ぶ手伝いをしたくないようだ」 テレサは、小鳥を狙う猫のような目つきでシャープを見つめていました。ハーパーは彼女のその表情を眺めていました。 「連中は俺たちの邪魔をしますかね?」 シャープは眉を上げて見せました。 「我々は同盟者だからな」 そして彼は声を張り上げ、ゆっくりと、スペイン人たちにもわかるように続けました。 「我々がカディスまで黄金を持っていく」 テレサが地面につばを吐き、そしてまたシャープに視線を戻しました。 シャープは、パルティザンたちは皆黄金が隠されているということを知っていたかどうかと考えていました。 もし多くのものが知っていたら、誰かが口にする危険があり、秘密が秘密ではなくなる。 しかし今は現実に黄金が取り出され、彼らはシャープたちが黄金を持ち去ろうとするのをとめようとしていました。 歩兵隊がエル・カトリコの領域の中を無事に金貨を運んで出ることができるかどうか、それも問題でした。 見張りの声がし、ノウルズが合流したことがわかりました。 彼と兵士たちは道に迷い、ヨレヨレに疲れて村に這うようにして入ってきましたが、ノウルズは黄金とシャープを見ると顔を輝かせました。 「信じられません」 シャープは金貨の1枚を彼に放ってやりました。 「スペインの黄金だ」 「すごい!」 兵士たちは中尉を取り囲み、彼は顔を上げました。 「あなたが見つけたんだ!」 「ハープスさ」 「ハープス!」 ノウルズは自分でも気づかずに、ハーパーのあだ名を口にしていました。 「どうやって見つけたんだ?」 「簡単でしたよ。簡単!」 ハーパーはまた手柄話を始めました。シャープは4回か5回は聞かされましたが、今回は軍曹の活躍だったので、それをもう一度聴かなければなりませんでした。 ハーパーはシャープが立てる大音響にビクビクしながら藪の中に潜み、じっと待っていたのでした。 そしてエル・カトリコと部下たちが出てきて剣で堆肥の中をつつくのも見ていました。 それで、彼には全てがわかったのでした。 「でもどうして?」 と、ノウルズは笑いながら尋ねました。 「スリのやり口を知っていますか?二人が組になるんです。ひとりが金持ちにぶつかれば、金持ちは財布が無事だったか確かめますよね?そうすれば財布のありかがわかるってことです。で、うまくやるんですよ!」 ハーパーはニヤニヤし、親指をパルティザンのリーダーのほうに突き出してみせました。 「そのとおりにやってくれたわけです!大尉がジタバタしている間はこっちは無事だったんですよ。それでこういう具合です!」 シャープは堆肥のほうに向かいました。 「袋はあといくつある?」 ハーパーは手をこすり合わせました。 「全部で63個です」 シャープはハーパーに目を向けました。汚れきって、人間だか動物だかわからないほどでした。 「洗ってこい、パトリック。よくやってくれた」 そしてシャープは袋を開いて金貨を確かめました。厚い金貨で、1枚当たり1オンス(31グラム)はあると思われました。 裏に書いてあるラテン語をノウルズに見せると、中尉は 「知恵のはじめは神を畏れることなり」 と読みました。フェリペ5世の肖像が刻まれ、1729年と印されていました。8エスクード金貨でした。 「いくらに当るんだ?」 ノウルズは考え込んでから、掌の金貨を軽く放り上げました。 「約3ポンド10シリングです」 1万6千枚の金貨は、5万6千ポンドに当るのでした。 シャープはヒステリックに笑い出しました。 30回、大尉に昇進できる! 100万人の兵士たちの日当よりも多い金額でした。 シャープが100年生きたとしても使い切れないほどの額が、今彼の足元にあるのでした。 兵士たちが幸運なら、その金貨の2枚分を1年で稼ぎ出す。そういう金額でした。 「1000ポンドですね」 と、ノウルズが言いました。 「なんだって?」 「重さです。1000か、もうちょっと」(約453キロ) 2分の1トン近い重さを、敵地の中、運ばねばならず、しかも天気が荒れ始めていました。 シャープは袋を指差しました。 「30に分けるんだ。背嚢に入れろ。必要なもの以外はおいていく。これを運ばなくちゃならん」 エル・カトリコが立ち上がり、ライフルの銃口が向けられる中、シャープに向かってゆっくりと歩いてきました。 「大尉、それはスペインの黄金だ。スペインに属するものだ。ここに置いていってもらう」 「それはカディスの軍事政府に属するものだ。運んでいく」 「必要ない」 エル・カトリコは静かな口調ながら、威厳を声に含ませました。 「フランス軍との戦いのために、我々が使う。フランス人を殺すために。きみがもって行くのなら、英軍が盗んだということになる。ここに置いて行くべきものだ」 「いやだね」 と、シャープはわざと微笑んでみせました。 「持っていく。英国海軍がカディスに運ぶ。信じられないのなら、なんであんたも一緒に来ないんだ?」 エル・カトリコも微笑を返しました。 「では一緒に行こうか、大尉」 シャープにはエル・カトリコの意味するところがわかりました。 その旅程はゲリラの急襲の恐怖にさらされるものになる。 しかし、ウェリントンの 「ねばならない」 は絶対でした。 雨がポツリと彼の頬を打ち、時間があまりないことがわかりました。 ハーパーが洗い立てのびしょぬれの姿で戻ってきて、パルティザンたちを顎で示しました。 「こいつらはどうします?」 「出発まで閉じ込めておけ。ノウルズ、支度はできたか?」 「もうすぐです」 ノウルズが金貨をわけ、マクガヴァーン軍曹とライフル隊員のタングがそれを背嚢につめていました。 タラベラでフランス軍の革製の背嚢をたくさん奪っておいてよかった、と、シャープは思いました。 英軍のトロッター製の背嚢は紐が胸に食い込み、ひどく痛むのでした。そしていつの間にか、兵士たちはフランス製の背嚢を背負っていました。 「64袋あるはずだったんじゃありませんか?」 と、タングが言いました。 「64?」 「1万6千枚の金貨のはずですよね?63袋あって、それぞれ250枚はいっています。1万5千750枚しかない。250枚足りません」 「行方不明はそれだけじゃないですよ」 とハーパーがいい、シャープにはその意味がわかりました。 ハーディー大尉のことを、シャープは忘れていました。彼はエル・カトリコに目を向けました。 エル・カトリコは肩をすくめました。 「一袋は使った。武器や、火薬や、食糧を買うのに」 「金貨の事を言っているんじゃない。ハーディー大尉が行方不明だ」 エル・カトリコは唇を舐めました。 「フランス軍に捕虜にされたのではないか?そのうち捕虜交換を申し出てくるだろう」 「俺が吐かせてみましょうか」 と、ハーパーが申し出ました。 「ハーディーはフランス軍から逃げようとしたのよ。今はどこにいるかわからない」 と、例の娘の声がしました。 「嘘つきばかりだ」 とハーパーが言った時、雨足が強くなりました。兵士たちはあわただしく武器にカバーをし、ハーグマンの声が鐘楼から聞こえてきました。 騎馬の男たちが向かってきているということでした。フランス軍ではないようでした。 時間がない。 彼らは再びハーディー大尉のことを忘れ、パルティザンたちを閉じ込め(それが全部かどうか、自信は有りませんでしたが)、しかしシャープには、逃げ切れないことはわかっていました。 黄金は重過ぎる。 エル・カトリコにもわかっていました。 「そう遠くまではいけないだろう、大尉」 「なぜだ?」 エル・カトリコは微笑し、雨に手を差し伸べ、黄金を指差しました。 「我々が追う。そしてきみたちを殺す」 そのとおりでした。 村に残っている馬を使ったとしても、そんなに早くは進めないだろう。雨はひどくなってきて、道はぬかるんでいる。 シャープは笑い、エル・カトリコを押しやりました。 「あんたにはできないさ」 彼はテレサの襟をつかみ、彼女を引きずり出しました。 「俺たちに何かしたら、彼女を殺す」 エル・カトリコは飛び出そうとし、テレサは身をよじりました。しかしハーパーの一撃がすばやくエル・カトリコの腹に沈みました。 シャープはテレサの喉をつかみました。 「わかったか?黄金が英軍に届かなければ、彼女は死ぬ」 エル・カトリコは身体を起こし、恐ろしい目をしました。 「シャープ、貴様は死ぬ。必ず殺す。むごたらしくな」 シャープは彼を無視しました。 「軍曹、ロープだ」 テレサの首に、ロープがかけられました。そして彼女をハーパーに預けると、シャープはエル・カトリコに向き直りました。 「憶えておくんだな。近づいたら彼女を殺す。俺が無事に戻れたら、そのときはあんたと彼女を結婚させてやるよ」 シャープには、彼らがすぐに追ってくるだろうことはわかっていました。しかし、時間稼ぎは必要でした。 そしてテレサの嫌悪に満ちた顔を見ながら、彼女を殺せないということを確認していました。 エル・カトリコがそれに気づかずにいてくれることだけを、彼は願っていました。 そして彼らは、雨の中、帰途の長い道のりを歩き始めたのでした。
by richard_sharpe
| 2006-09-16 20:17
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