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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第11章 失敗。 その感覚が二日酔いのように重苦しくのしかかっていました。 カーサテハーダから軽歩兵隊を英軍本隊に連れ帰るには、2つの川が行く手をふさいでいました。 ラモンだけが、別れを惜しんでくれました。彼はシャープの両頬にキスをし、 「約束を忘れないで、大尉。ライフルだよ」 というのでした。 シャープはその約束をどう果たせばいいものかと考えていました。 アルメイダはおそらくもうすぐ襲撃を受け、フランス軍はこの一帯を占領し、英軍は海に追い落とされ、撃破される。 そしてたぶんまだ、黄金はカーサテハーダにある。 彼はウェリントンの言葉を思い出していました。 「なければならないのだ。わかるか?そうせねばならぬのだ!」 黄金ならもっとあるはずなのに。ロンドンの金庫に、銀行に、商船に。 なぜ、この黄金なのだろう。 疑問を抱えたまま、兵士たちはアグエンダ川に差し掛かろうとしていました。 同行するパルティザンたちは、最初に彼らを眼にした丘のところから南に向かうことになっていました。 彼らの中にカーシーのブルーのジャケットは見えましたが、灰色のコートを着たエル・カトリコの姿はありませんでした。 シャープがたずねると、 「先に行った」 という答えが返ってくるだけでした。 パトリック・ハーパーが追いついてきて、シャープの顔を見つめました。 「一言、よろしいですか?」 「いつもはそんなこと聞かないじゃないか。どうした?」 「連中を見て、何か思い出しませんか?」 と、ハーパーは彼らをエスコートしている騎馬の男たちを示しました。 「言ってみろ」 「徴兵された時のことを思い出したんです。こんな感じでしたよ、デリーから歩いていた時は」 シャープは、ハーパーが故郷のことからはじめる時の話し方を心得ていたので、さえぎらずに聞いていました。 「で、奴らはこんな感じでエスコートしていたんです。馬に乗って、前と、両脇と、後ろに。道中ずっとね。一人も逃げ出さないように。囚人のようなものですよ。夜も見張られ、マゲラの近くの物置に入れられていた。ずっとです!」 軍曹の表情は、故郷のことを話すときには悲しみで曇るのでした。しかしやがてニヤリとすると、 「何を言おうとしているかわかりますか?連中は囚人を連れているんですよ。俺たちがこの土地から出て行くのを見張っているんです」 「だとしたら?」 二人は他の兵士たちに聞こえないように、歩調を速めていました。 「奴らは嘘を言っているってことです」 「なるほど。どうして嘘をついていると?」 ハーパーは昨日のエル・カトリコの言葉を指摘しました。 6日前に召使を葬ったこと。それは日曜日に当るということを。 「で?」 「カトリックは聖なる日に埋葬はしないんですよ。ありえません!」 そしてハーパーが珍しい鳥(赤トビ)に気をとられている間、シャープは考えていました。 地下室の上の石が、カーシーにすらわからないほどきっちりとはめられていたこと。 エル・カトリコが捕虜にしていた槍騎兵の軍曹をすばやく殺したこと。 フランス軍は黄金について何も知らなかったからではないだろうか。 フランス軍は黄金を奪っていたとしたら、急いでシウダード・ロドリゴに戻るはずだ。 ハーパーの言うように、墓は日曜日に作られ、それもまた疑わしいことでした。 エル・カトリコは嘘をついている。証拠はありませんでしたが、確かなことでした。 シャープはハーパーを振り返りました。 「黄金はあの墓にあると思うか?」 「何かがあるはずです。おかしいのは、あの墓は暴かれていなかったということですよ」 「もし俺がフランス将校なら」 と、シャープはつぶやきながら考えました。 「何かが隠されているとしたら、新しい墓だと思うだろうな。まずそこを探す」 ハーパーはうなずきました。 「で、そこに英軍の将校が埋められていたら?」 ハーディー。 もしフランス軍が英軍将校の墓を暴いたら、速やかに埋め戻し、祈りをささげるだけでそれ以上のことはしないだろう。 「しかし・・・」 「わかっています。変ですよね。カトリックは異教徒を一緒の墓地に埋めたりしないものです。でも何千もの金貨を隠すためだとしたら?やりかねませんよ。あの娘さんの親父さんは何か言っていましたか?」 「何も知らないそうだ」 それは本当だろうと思っていました。シャープが黄金のことを尋ねた時、テレサの父は顔を背けました。 「黄金!いつだって黄金の話だ!リスボンに届けて欲しかった。エル・カトリコは陸を運ぶといったのだ!フランス軍がそれを持って行った。カディスに行くはずだったものが、もうないのだ」 さらにシャープがそのことについて聞こうとしたとき、テレサを伴ってエル・カトリコが姿を現したのでした。 そして今、ハーパーの言葉がシャープに新たなイメージを与えました。 イギリスの田舎にある古代の墳墓と、そこに埋められた黄金の伝説。ドラゴンに守られていて、掘り出すことができない。 それをシャープは振り払い、カーサテハーダに黄金がありえるかということを考え始めました。 なぜエル・カトリコはカーシーがパルティザンと共に残るように仕向け、あるいはシャープたちライフル隊にも残るように言ったのか? もしハーパーが正しいとしたら、そしてシャープ自身の疑いが正しいとしたら、墓は協会の規則に反して日曜日に彫られ、そこにはジョセフィーナの愛人の遺体と共に黄金が埋まっている。 エル・カトリコは、おそらく彼の疑いをそらすためにパルティザンと残るように言ったのだろうと思われました。黄金はいつでも掘り出すことができる。 嘘のような話でしたが、もしここで決心しなければ、黄金は永遠に手に入らないということが、シャープにはわかっていました。 彼は声を上げて笑い出し、エル・カトリコの部下のホセが振り向きました。 「大尉?」 「休憩を取る。10分だ」 兵士たちは腰を下ろし、シャープは負傷者たちに声をかけて回りました。 「明日にはアルメイダだ。明後日には連隊に合流できるぞ」 彼はわざと大声で言いました。 彼は決心していました。 明日はアルメイダには着かない。カーサテハーダに戻り、墓堀をする。 それだけが、疑いの種を除くことができるのでした。しかしそこには、フランス軍よりも危険な敵が待っているはずでした。 もしそこに黄金があったとしても、フランス軍と、さらに手ごわいパルティザンを酒ながら、20マイルの道のりを運ぶことができるか。 しかしこのとき、彼はホセの気をそらすため、兵士たちもびっくりするほどの浮ついた声で言ったのでした。 「明日には肉が食えるぞ。野菜のシチューじゃないんだ!ラムもあるし、女房たちも待っている。楽しみじゃないか?」 兵士たちは、シャープが幸せなら自分たちも幸せだというように、笑顔を見せました。 「おまけに俺たち独り者には、ポルトガル人の美人が待っている!」 「あんたたちは女のために戦うのか?」 と、ホセは信じがたいような表情で尋ねました。 「そうさ。後は酒のためだ。それから1日差し引き1シリングのためだな」 ノウルズがやってきて、10分の終わりを告げ、シャープは手を打って兵士たちを立たせました。 兵士たちは機嫌よく立ち上がると荷物を背負い、銃を肩にかけました。 シャープはホセに印象を植え付けようとしていました。 まさか彼らがカーサテハーダに戻るとは思わせないために。 パトリック・ハーパーが再びシャープに歩調を合わせました。 「で、戻るんですか?」 シャープはうなずきました。 「他の誰にも知らせるなよ。どうしてわかった?」 ハーパーは笑い出しました。 「だってあなたはあいつの女にぞっこんですからね」 シャープは微笑しました。 「そして黄金だ、パトリック。黄金を忘れちゃダメだ」 アグエンダ川には夕暮れに到着し、シャープは東側の岸にキャンプを張りたかったのですが、それはパルティザンたちに疑惑を抱かせることになるのでやめました。 彼らは兵士たちが対岸に渡るまで、監視を続けていました。 ずぶぬれで震えているノウルズに命じ、シャープは大きな焚き火を焚かせました。 パトリック・ハーパーは、衣類を火で乾かしながら、なぜ大尉が敵に発見される危険を犯して火を焚かせたのかを考えていました。 パルティザンからも、兵士たちがここにいるのがわかるからだ。 しばらくのち、ホセは立ち去ることを決意したらしく、シャープは騎馬の男たちが東に去っていくのを見ていました。 「中尉!」 ノウルズが焚き火のそばからやってきました。 「引き返すぞ。今夜だ」 ノウルズはそれを予期していたかのようにうなずきました。 「負傷者は連れて行けない。リード軍曹がアルメイダまで連れて行く。3人の兵士をつけてやれ。そしてコアに出て、艦隊に合流するように言うんだ。いいな?そしてこちらは二手に分かれる。俺はライフルマンを先導する。後からついて来い。カーサテハーダの墓地で会おう」 「黄金はあそこにあると?」 「たぶんな。みてみたいんだ」 シャープは中尉に笑いかけました。 「指示を出してくれ、ロバート。そして何か問題があったら知らせてくれ」 闇が濃くなり、月は雲に隠れ、星が瞬き始めました。冷たい北風が吹いていました。天気が変わりそうでした。 今夜はもってくれ。 と、シャープは思いました。雨になると遅れる。カーサテハーダには、闇の中で到着しなければなりませんでした。 ノウルズが戻ってきました。 「何か問題が?」 「リードだけです。書類が必要だというのです」 シャープは笑い出しました。 リード軍曹のイシアタマめ。フランスよりも厄介な敵だな。 シャープはノウルズのノートから破りとった紙に、闇の中で鉛筆を走らせ、ノウルズに渡しました。 「まだ何か?」 「黄金があることをご存知なのですか?」 「俺が知らないということを、お前は知っているはずだ」 「危険です。カーシー少佐は戻るようにおっしゃったし、エル・カトリコは我々を歓迎しないでしょう。それに・・・」 と、彼は言いよどみました。 「それに?」 「例の憲兵の事件の後で、将軍とあなたの間に何かあったことを、みんな知っています。もしカーシーが何か言ったら、そうしたら・・・」 「さらにトラブルになると?」 「そうです。それだけじゃなくて、官報がまだ交付されていないのをみんな知っています!あなたが兵卒上がりだから!イーグルまでとってきたのに、不公平です!」 「ちがうちがう」 シャープはノウルズをさえぎりました。彼はちょっとたじろぎ、驚いていました。 「軍が不公平なんじゃない。遅いだけだ」 そのことを、彼自身信じてはいませんでした。しかしそう自分に思わせたとしても、やはり苦い気持ちでした。 彼はあの得意だった瞬間を思い出していました。 将軍はすぐに官報で彼を大尉に任命したのですが、それきり、まだ本部からの連絡はありませんでした。 拒否されたのかどうかさえ、わかりませんでした。 全く、昇進のシステムって奴は。 シャープはノウルズを見ました。 「お前は中尉になってどれくらいになる?」 「2年9ヶ月です」 その答えのすばやさにシャープは驚きましたが、中尉たちは昇進に必要な3年を数えて暮らしているのでした。 「クリスマスまでには大尉になるのか?」 「父が支払いをしてくれます。タラベラの後で、約束してくれました」 「お前はそれだけの価値があるよ」 シャープは痛いような嫉妬を感じていました。 500ポンドあれば、大尉の地位を買える。ノウルズはいい親父を持ってラッキーだな。 シャープは笑い、自分の憂鬱な気分を振り払いました。 「もし俺の官報交付が失敗していたら、クリスマスには立場が逆転だ!」 彼は立ち上がりました。 「時間だ。どうやって道を探すか。まあ、うまくやろうぜ」 北東に1000マイルほど離れた場所で、一人の小男が飽くことを知らずに書類の山を相手の仕事を続けていました。 そしてアンドレ・マーシャル提督の最近の通信を繰り返し読んでいました。 彼がエスリング公に任命したばかりのこの提督が、接触をたとうとしているのかと考えていました。 そんなにも小規模な英軍に対し、この大規模なフランス軍をもってして、なぜマッセーナはこんなに時間がかかるのか。 報告書ではマッセーナはポルトガルに進軍しつつあり、英軍は今にも海に追い落とされそうだというのに。 その小男はあくびをしました。 彼は自分の帝国で起きていることのすべてを承知していました。エスリング公が若い女に溺れていることも。 仕方ない、男には必要だ。特にこんなに長く続いている時は。勝利が全てを帳消しにするだろう。 彼は声を上げて笑い、召使にろうそくをともさせました。 マッセーナの愛人が軽騎兵のユニフォームを着ているからといって、それがどうした? 帝国は安泰だ。 小男はベッドに向かい、そして皇妃のもとで、これからの数ヶ月続くであろう眠れぬ夜を忘れようとするのでした。
by richard_sharpe
| 2006-09-14 19:52
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