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1810年8月、アルメイダ破壊作戦。
第5章 エル・カトリコは丘の影から騎乗の男たちを率い、カーシーの説明を聞かなくてもシャープにはどの男がそのリーダーか、望遠鏡を通してはっきりとわかりました。 シャープはゲリラたちの隊列を追い、プリンス・オブ・ウェールズ騎兵隊の制服を探しましたが、ハーディー大尉らしい姿はありませんでした。 そして男同然の働きをする、というテレサらしい女の姿も見えませんでした。 彼らは圧倒的多数のフランス軍に向かって行き、先頭が敵の隊列に達して剣を振り下ろしたところでした。 トランペットが静寂を破り、フランス軍は隊を整えようとしましたが、エル・カトリコはその暇を与えませんでした。 人質になっていた兵士に釣られたフランス軍は一撃で追い立てられ、スペイン人部隊が姿を見せてからほんの2分後には、さらに捕虜を増やした結果となりました。 エル・カトリコは襲撃から生き延び、さらにパルチザンによる追撃を受けているフランス騎兵たちが村から逃げ出していくのを馬上から見ていました。 彼はまだ満足しない様子で、フランス軍の行く手を突っ切りました。10人あまりが彼を追いました。 カーシーは笑いを浮かべました。 「彼はこのあたりでは随一の剣の使い手だ。スペインでも最高かもしれん。4人がかりのフランス人を、祈り続けながら殺したのを見たことがある」 2人の捕虜を助け出そうとした騎兵たちの20人以上が殺され、あるいは捕虜になってしまったのでした。一方でパルチザンは無傷でした。 フランス軍は正面からプライドを打ち砕かれました。 「終わったようだ」 と、カーシーは地平線を見ながら言いました。シャープはうなずきました。 「見事でした。でも一つだけ。フランス軍は村で何をしていたんでしょうね?」 「ハチの巣の掃除さ。この下が街道だ。アルメイダ攻撃のための補給路はここを通るし、ポルトガルを攻撃するにはこのあたりを押さえなければならない。パルチザンが行く手にいるのを望まないのだ。だからこのあたりを一掃したか、そうしようとしたのだ」 その説明でシャープは納得しましたが、しかし気になることがありました。 「しかし黄金は?」 「隠してある」 「ハーディーは?」 「わからんが、どこかにいる。少なくともエル・カトリコはここにいるし、彼らは我々の敵ではない。我々が到着したことを、彼に知らせてきたほうがいいだろう。シャープ、ここで待機しろ。私はエル・カトリコに会ってくる。北側を迂回する。今夜遅くに戻れるだろう。火を焚くなよ」 カーシーは急ぎ足で立ち去りました。 問題は、エル・カトリコが黄金の「エスコート」を英軍にさせてくれるかどうかだな。と、シャープは思いました。 カーシーがいようがいまいが、村の向こう側の隠遁所とやらを調べてみたいものだ。とも思いましたが、彼はその考えを払いのけ、横になりました。 静かな谷に日差しが強く照りつけ、草が光っていました。 北の地平線上に雲が広がり、一両日中には雨になりそうでした。 シャープは頭の中で帰り道のプランを描き出そうとしていました。サン・アントンの岩場の広がる谷を抜け、荒野の端を通る。 果樹園の向こうには墓地と隠遁所が見えていました。もし鍵がかかっていたら? まあ、中隊のうちの10人程度は錠前破りで稼いできた連中だ。鍵は大丈夫。しかし問題は、黄金を見つけ出すという任務だ。 カーシーはモレーノ家の納骨堂にあると言っており、簡単そうに聞こえましたが、真夜中にフランス軍のすぐそばで作業し、夜明けまでにそれを無事に持ってくることができるかどうかを考えていました。 「奴らは夜まで村を出ませんよ」 と、ハーパーが傍らで言いました。 「出ないだろうな」 「ちょっと難儀な道ですね」 「ハーグマンがうまくやるさ」 ダニエル・ハーグマンは闇の中でも道を見つけ出すという、神秘的な能力を持っていました。 それなのにどうしてこの密猟者は徴兵に捕まってしまったんだろう、と、シャープはいつも不思議に思っていましたが、どうやらある晩飲み過ぎてしまった、というところのようでした。よくある話でした。 「ま、あの少佐にもできることなら、俺たちにもやれますよ」 と、ハーパー軍曹はうなずき、笑いました。 シャープは西日の中で谷を眺めながら横たわり、納得が行くまでプランを練り続けていました。 納骨堂を想像し、金貨の山を思い描き、それが軍をフランスの攻撃から救うことができるのだ、と考え、しかしなぜその金が必要なのか、と疑問を抱くのでした。 運べる量だろうか。もし多すぎたら?運べるだけ運ぶしかない。 この少数のライフルマンたちだけで、フランス軍の領域を・・・? いや、もっとシンプルに考えなくては。 夜襲は大失敗に終わる可能性もあるが、良く考え抜かれた計画は生還につながる。 彼は、興奮がみなぎってくるのを感じました。 たぶんやれるぞ! シャープは考え込んでいたので、最初のうちはトランペットの音に気づきませんでした。 ハーパーが彼をモレーノ家の納骨堂から引き戻し、北東の道の果てを示しました。 「なんだ?」 「騎兵です」 「北から?」 「パルチザンがいた辺りです。何か起きています。何でしょうね」 何かおかしい。 シャープは谷の反対側の歩哨に声をかけました。 「何か見えたか?」 「見えません」 「あそこです!」 ハーパーが指差した先には、カーシーの姿がありました。 少佐は振り返りながら、村に向けて馬を駆けさせていました。 「なんだろう」 とシャープが言った途端、カーシーの背後に、青と黄色のユニフォームの騎兵隊が姿を現しました。彼らは剣の代わりに長い鉄の穂先をつけた槍を手にし、赤と白の旗印を負い、少佐が道を引き返したと見るや、馬腹をけりたてて彼を追いました。 ノウルズが首を振りました。 「あれは?」 「槍騎兵隊だ」 シャープは憂鬱な声を出しました。彼らはヨーロッパでも名声が高く、勇猛な戦士たちでした。 インドで、シャープ軍曹は危うくそのような長い槍で木の幹に釘付けされそうになり、その時の傷はまだ残っていました。 槍騎兵たちはゆっくりと、しかし確実に追いつこうとしていました。カーシーの馬が持つかどうか。 この騎兵たちはどれくらいの規模でこのあたりの対ゲリラ戦に投入されているのだろう。 いつまでこの辺にいるつもりなのだろうか、とシャープは考えていました。 カーシーがいきなり馬を速め、すぐ背後に迫った槍から逃れようとしました。ノウルズはこぶしを握りしめていました。 葦毛の馬は大きく足を動かし、らくらくと走り抜けていました。カーシーは剣を抜く必要もなさそうで、シャープは幾分ほっとしましたが、そのとき。 突然馬が前足を上げて身をひねり、カーシーは落馬しました。 「ヨタカだ!」 と、ハーパーが馬の鼻先をかすめて飛び立った鳥に目を留めて叫びました。 見当違いでしたが、シャープはこのときこのアイルランド人がこの距離から鳥の種類まで特定できることに驚いていたのでした。 彼は望遠鏡を取り上げ、カーシーが立ち上がったのを見ました。彼は鐙に足を掛け、再び鞍にまたがりました。 「エル・カトリコは?」 と、ノウルズが尋ね、ハーパーは 「ずっと遠くですよ」 と暗い声で答えていました。 馬は再び進み始めましたが、すでに槍騎兵たちはすぐ後ろに迫っていました。カーシーは馬の向きを変えて村への坂を下ろうとしましたが馬は怯え、その瞬間にカーシーはつかまったのでした。 彼は向きを変え、剣を引き抜きました。そして高々と差し上げました。 馬は落ち着きを取り戻し、槍騎兵たちが殺到する中、さらに進もうとしていました。 少佐は手首をうまく動かし、すばやく右腕をふるって敵の旗印を切り落としました。 「お見事!」 と、シャープは笑みを浮かべました。 カーシーは一人の敵の腹に剣を突き立て、しかし土ぼこりが舞う中、闘いは終わりました。 「生きてる!」 と、ノウルズが指差しました。 「見てください!」 少佐は二人の騎兵に挟まれ、槍を向けられ、血を流していましたが馬上にありました。 人質将校の交換のために、彼は確保されたようでした。 しかしポルトガルから英軍がやってくるまで、何ヶ月もカーシーは待たなければならないだろうな、と、シャープは暗い気持ちになりました。 そしてシャープはウェリントンの希望が留め置かれている隠遁所に目を向けました。 カーシーがいないということなら、やっぱり夜中に中隊が作業することは重要だ。 槍騎兵たちの半数はカーシーを連れて村に向かい、残りは隠遁所と墓地に向かって行きました。 絶望的だ。 フランス軍が去るのを待つしかないか。 フランス軍が去ったら、エル・カトリコが来るだろう。 シャープは、先刻見た背の高いグレーのコートのスペイン人は、黄金が英軍の手に渡るのをなんとしても阻止するだろうと確信していました。 そのパルチザンのリーダーを懐柔できるただ一人の人物は敵の手に落ち、傷を負っている。 彼は稜線から滑り降り、中隊を振り返りました。 ハーパーがそばにやってきました。 「何をしましょうかね?」 「何って?闘うのさ」 シャープは剣の柄を握りました。 「見物はもう十分だ。今夜、少佐を取り返す」 ノウルズは驚いた表情で彼らを振り返りました」 「取り返す?あっちは2連隊なんですよ!」 「だから?たった800人じゃないか。こっちは53人いるんだぜ」 「アイルランド人も1ダース」 と、ハーパーは声もなく笑い、少尉を見ました。 ノウルズは坂を這い下り、信じられないように彼らを見ていましたが、やがて笑い出しました。 「キチガイ沙汰ですよ!本気ですか?」 シャープはうなずきました。ほかに選択肢はありませんでした。 53人で800人に奇襲を掛けるか、戦争に敗北するか。 彼はノウルズに笑いかけました。 「心配するな!簡単なことだ!」 さてそれにしても、と、シャープは思いました。これからどうしようか。
by richard_sharpe
| 2006-08-22 15:51
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